STEP6
資金調達マニュアル
ピッチデッキを作成する
著者
砂川 大
株式会社スマートラウンド
CEO
監修
倉林 陽
DNX Ventures
Managing Director
事業計画書とは、その事業が成功すると考えられるか、それはなぜか、を検証するために、いろいろな側面から分析した結果を簡潔にまとめた資料です。事業計画書の読み手は主に以下の三者であり、提供する目的もそれぞれ違います。

だからといって目的別に複数の事業計画書を作る必要はありません。スタートアップにとって特に重要な目的は上記3の中の「外部から資金調達をするため」であり、1と2はその事業計画書の作成プロセスにおいて達成できればいいのです。
スタートアップではない中小企業をターゲットにした本やサイトでは、例えば飲食店などを想定して、「銀行からの融資を得るため」の事業計画書の書き方を解説していることがほとんどです。これらは事業の確実性や安全性を全面に出して「元利が予定どおり返済される」ことを銀行にアピールするべく最適化されています。
しかしスタートアップは、リスクをとって急成長を狙う会社であり、融資による資金調達は(特に創業初期は)あまり現実的ではありません。したがって、スタートアップにとっての事業計画書とは、資金の提供者である投資家に自社を売り込むためのスライド資料とほぼ同義語となります(これをピッチデッキといいます)。このピッチデッキで訴えるポイントはただ一つ:
「いま当社に投資すれば、数年後に数十倍になって戻ってくる」
です。特にVCは他人の資金を預かって運用しているので、いくら社会的意義がある事業でもリターンが見込めないスタートアップには投資できません。
なお、スタートアップであっても公庫や銀行から借り入れを行うことがあります(むしろいま日本のように資本コストが極端に低い場合、デットを積極的に活用すべきですがここでは触れません)。こうした時はピッチデッキを土台に、先方の雛形を埋めていきましょう。
また、人によって「事業計画」は違うものを指している場合があるので注意が必要です。広義の事業計画とは上記のようにピッチデッキをさす一方、狭義の事業計画とはそのうちの数字の部分である財務計画、さらにその中の収益計画をさしている場合があります。
ピッチデッキの構成要素は以下の13項目に限定し、それぞれ可能な限り1ページにまとめましょう。 ピッチをする時、聞き手の集中力は約15分しかもたないと言われています。仮に各ページ1分で説明できたとしても13枚で13分です。ストーリー(話の流れ)にそって各要素をわかりやすく簡潔に説明しましょう。下記以外の情報、サポートするデータなどは本編ではなくAppendix(添付資料)としてピッチデッキの最後に整理しておきましょう。
1:表題 | 会社やサービスの名前、ミッションステートメント、住所、連絡先を明記 |
|---|---|
2:要約 | このピッチデッキで伝える内容の要約 |
3:課題 | どんな課題を解決しようとしているのか |
4:解決策 | 自社プロダクトはどのようにその課題を解決するのか |
5:実績 | これまでの実績と現状 |
6:市場規模 | 自社プロダクトの市場規模はどれくらいか |
7:自社の強み | 自社にはどんな「不公平な優位性」が備わっているか |
8:ビジネスモデル | どのようにお金を儲けるのか |
9:拡販方法 | どのようにビジネスを拡大するのか |
10:競合分析 | 既存・潜在的な競合はどこで、自社の比較優位性はなにか |
11:チーム | 個人の強みとチームとしての強み |
12:収益計画 | いつどれだけ売上があがり、費用がかかるのか、KPIはなにか |
13:資金調達計画 | マイルストーンおよび調達する資金の規模と時期 |
魅力的なスタートアップには一定の法則があります。それは以下の3つのポイントがしっかり説明できる会社です。
最も重要なポイントが「課題」です。スタートアップが解決すべき課題には以下のように、いくつかの特徴があります。
大勢の人がすでに認識している課題(例:100万人が熱望)
日々拡大している課題(例:毎年倍増)
緊急を要する課題(例:すぐに解決しないと破滅する)
高いコストがかかっている課題(例:皆のコストを積み上げると1000億円)
外部要因の変化で顕在化した課題(例:来年、法律が改正される)
頻度の高い課題(例:毎時間やらないといけない)
全て合致している必要はありません。ただし、どれか1つに該当していないとスタートアップの解決する課題とは言えないでしょう。一方で、社会の根底に潜在的に存在している大きな課題(ピーター・ティールのいう「「ほとんど賛成する人がいないような大切な真実」)の場合、これらの尺度で測れないこともあります。そして、むしろそうした潜在的な課題を解決した方が爆発的な成長をする場合もあるので、これらの評価軸が「絶対」ではないことを注記しておきます。
次に「解決策」です。解決策は論理的に設定した課題を解決する手段でなければなりません。例えば「世の中にSNSが多すぎて使いこなすのが大変」という課題に対して、高機能なSNSを新たに提供するという解決策を提案したスタートアップは課題を解決しているでしょうか。新しいSNSを提供したら、SNSが多くなるだけではないでしょうか?本当に自社のプロダクトは論理的に最初に設定した課題を解決できるのか、よく検証してみましょう。
また「解決策から始めるな」も重要な教訓です。ブロックチェーンが面白いから、それを使って何かしよう。AIが流行っているからソリューションを作ろう。チップセットをかなり小さく作ることができたから事業化しよう。これらは全て間違いです。
投資家はそうしたスタートアップには投資はしたがりません。全ては課題から始まるべきで、その課題を「どんな方法でも、どんなテクノロジーでも、どんなチームでも構わないから解決する」ということにコミットしないと非効率ですし、急成長できないでしょう。
最後は「投資をする理由」です。なぜ自社なのか、なぜ今なのか?これらに答えられないと課題の解決は誰か他の人にやってもらった方がいいことになりかねません。どんなUnfair advantatge(不公平な優位性)が自社に備わっているのかを整理しましょう。
創業者(例:世界の中でこの問題を解決できる10人のうちの一人:強力)
マーケット(例:市場全体が毎年20%で成長している:ただしこれは一番弱い)
インサイト(例:誰も気付いていない事実を知ってる)
プロダクト(例:競合よりも10倍すばらしいプロダクト)
ネットワーク(例:ターゲット顧客の最大コミュニティを運営している)
顧客獲得コスト:(例:バイラルだけ0円)
先駆者利益と独占性(例:ネットワーク効果)
全て備わっている必要はありませんが、どれも当てはまらないようだと投資家はこう言うかもしれません。「事の重大さはよくわかったし、素晴らしい解決策だと思う。ではそれで成功しそうな良いスタートアップを探すよ。教えてくれてありがとう。」
ピッチを聞いていると、どうしてその結論が導けるのかわからなくなることがあります。これは多くの場合、論理的なストーリーになっていない(話の筋道がとおっていない)ことに起因しています。
日々その事業のことばかり考えている経営者の頭の中では整理されているのかもしれませんが、断片的なデータの羅列をピッチデッキとして見せられたら、投資家はたまったものではありません。聞いている人の立場に立って、話がスッとはいってくるように、上記の13の構成要素を論理的なつながりのあるストーリーとして展開しましょう。それは例えば以下のような説明です。
人々はこんな重大な課題をかかえている
この課題を、自社プロダクトはこのように解決する
これまでの方法とはこれくらい違いがあり、だから人々にはこんな価値がある
その価値を裏付けるのがこのような実績だ
同じ課題を抱えている人たちはまだこれくらいいて、これくらい勝ち取れる
なぜ勝ち取れるかというと自社にはこの不公平な優位性があるからだ
.... などなど
人は内容よりもビジュアルから受ける影響の方が大きいといいます。いかに素晴らしい内容のピッチデッキでも、その見た目が悪いと印象が著しく悪くなりますし、なによりも理解してもらえません(読み手は理解したくなくなります)。大切なメッセージをしっかり伝えるために、少なくとも以下のポイントに注意してピッチデッキを作成しましょう。
文章:必要な内容だけを体言止めで表現する
フォント:シンプルで大き目のフォントに統一する
グラフ:導きたい答えが一目でわかるよう表現する(立体グラフはNG)
レイアウト:要素の関係性を配置で表現する
色遣い:少ない色をルールを決めて使う
写真:縁を超えるまで大きく使う
またアニメーションや動画埋め込みなどを多用して、過度に凝ったピッチデッキを作る人もいますが、ピッチデッキが印刷されて共有された時に目的を果たせなくなる可能性があるので、できれば避けたいところです。もちろん動画が決め手ということもあるでしょうから、その場合は、ピッチ用と共有用を別に作っておくといいでしょう。
とはいえこうしたデザイン作業は必ずしも経営者がやるべきものではありません。あまり得意でない、好きではないという場合は、外部の専門業者に依頼することも検討すべきです。
ちなみに経営コンサル企業のプレゼン資料の体裁はとても参考になります。
ピッチデッキは一度作ったら終わりではありません。実際にピッチをすると、これまで気付かなかった視点から質問やフィードバックを得ることがあります。また事業を進める中で、新たな気づきを得ることも多いはずです。ピッチデッキは自社プロダクトと同じです。得られた学びやポイントを反映して継続的に改善していきましょう。
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