STEP17
資金調達マニュアル
契約条件を交渉する
著者
砂川 大
株式会社スマートラウンド
CEO
監修
永井 亮
弁護士
投資内容に関する事項はほぼ事実の列挙をするだけです。登記申請書類を簡略化するため、以下のうち1、4、5、6、8、9を抜粋して別途「総数引受契約書」とするケースも多く見受けられます。
1: 発行する株式の種類 | 普通株式、A種優先株式、B種優先株式といった投資家が引受ける株式の種類を記載。 |
|---|---|
2: 発行可能株式総数 | 会社として発行できる株数を種類別に記載。 |
3: 発行済株式総数 | 上記2のうち、これまで発行された株数を種類別に記載。新株予約権も行使後の種類と株数を記載。なお発行済株式総数には潜在株式も含む。 |
4: 発行株式数 | 今回発行する株式の総数と、各投資家が引受ける株式数を記載。 |
5: 発行価額 | 今回発行する株式の1株あたりの株価を記載。 |
6: 振込金額の総額 | 投資家による今回の投資総額。 |
7: 払込条件 | 投資家が投資を行うための前提条件を記載。例えば、他の投資家からも資金調達し事業遂行に必要な最低調達額に届くこと、重要な知財の移管、取締役の就任、必要な社内または法的手続きの完了などがある。 |
8: 資本金等 | 今回調達した資金のうち、資本金と資本準備金にそれぞれいくら組込むかを記載。通常は50:50とされる。 |
9: 払込期日 | 払込期日を記載。総数引受契約書でなければ「予定」とすることができる。 |
10: 追加発行 | 投資家が諸事情(外為法の手続き、追加審査、会議日程、現金不足など)により投資実行が遅延する場合、それを一定の制限下で許容するための条項。 |
11:優先配当 | 事業年度あたりの配当額とその優先順位を決める条項。金額の他、(普通株式には当然に優先するが)他の優先株式に対しては優先なのか同列なのか、参加型なのか非参加型なのか、累積型なのか非累積型なのかを記載する。 |
|---|---|
検討のポイントアドバイス | ・バリュエーションを上げるという機能はあるものの、通常スタートアップは配当を出さないのでこの条項は極力削除したい。最悪でも未払いの配当義務が翌事業年度に繰り越される累積型は避けたい。 |
12: 残余財産分配の優先 | 会社清算時に残った財産の分配の優先順位を決める条項。投資家にとって最も重要な条項のひとつ。通常、優先倍率は1倍(つまり今回の投資額と同額を優先的に返してもらう)なので、5に記載した1株あたりの発行価額と同額となる。(普通株式には当然に優先するが)他の優先株式に対しては優先なのか同列なのか、参加型なのか非参加型なのかを記載する。 |
検討のポイント・アドバイス | ・スタートアップから見ても、優先株式による資金調達はバリュエーションを上げる(ひいては希釈化を避ける)ために有効であり、この条項は必須となる。 |
13: 取得請求権 | 投資家が「いつでも」自社の保有する優先株式を普通株式に転換することができる権利(取得請求という名前が紛らわしいが、発行会社に優先株式を「取得」させ同時に普通株式を発行させるので、転換するのと同じ)。 |
検討のポイント・アドバイス | ・取得請求権は実務上、優先株式には必須なのでこれを削除することはできない。 |
14: 取得条項 | 上場申請することを取締役会で決めた時など、一定の条件を満たした場合、会社が強制的に(上記の転換比率で)優先株式を普通株式に転換できるとする条項。 |
検討のポイント・アドバイス | ・種類株式を残したままでは、原則として上場申請ができないため、実務上必要。 |
15: 議決権 | 今回発行する優先株式の議決権を定める条項。通常株主総会と種類株主総会についてそれぞれ規定する。 |
検討のポイント・アドバイス | ・通常は通常株主総会での議決権を1株につき1個(普通株式と同じ)とし、種類株主総会での議決権も法定通りとする。 |
16: 株式分割等 | 普通株式や他の種類株式が分割等された場合に、今回の優先株式も同様に分割等されることを定める条項。 |
検討のポイント・アドバイス | ・一部の株式だけが分割されて株主構成が変化しないようにするため、実務上必要。 |
17: 資金使途 | 今回調達された資金が、発行会社の事業の発展のための具体的な使途に使われることを定める条項。 |
|---|---|
検討のポイント・アドバイス | ・使途を不合理に制限されなければ問題ない。 |
18: 表明保証(発行会社) | 投資家によるデューデリジェンスは最善はつくすものの、投資家が発行会社を完全にチェックすることは難しいため、それを補完する目的で発行会社の表明保証をとるもの。これに違反すると後述の契約違反となって契約が解除となる。 |
検討のポイント・アドバイス | ・可能な限り、範囲を合理的なものに限定する、「重要性」や「重大性」に限定する、「知る限り(小)」もしくは「知り得る限り(大)」と限定する、ことが重要。 |
19: 表明保証(創業株主) | 同上。これらに加え、投資家側にも一般的な内容について表明保証をしてもらうこともできる。 |
20: 投資家の優先引受権 | 今回ラウンド以降に発行会社が新株や新株予約権などを発行した場合に、今回ラウンドの投資家が自分の持分を希釈化させないために、優先的にそのイベントで発行された新株や新株予約権などを引受ける権利を定めるもの。 |
検討のポイント・アドバイス | ・実務上、問題はないが発行会社の役職員のインセンティブとして発行されるストックオプションは除外されるのが一般的。 |
21: 契約違反時の取扱い | 契約違反があった場合の取扱いを決める条項。基本は問題を解決するための努力義務を定めるもの。 |
|---|---|
検討のポイント・アドバイス | ・例えば株式上場努力を契約の中で規定して、上場努力しなかったからといって株式の買取請求されるようなことがあってはならない。 |
22: 契約の終了 | この契約書が終了する事由を列挙する条項。投資契約書で特徴的なのは「上場後も一部の株主だけ特別な権利を有する可能性」があると、上場審査に通らなくなるので、上場申請を行った時に、株主の特別な権利を定める投資契約書は(後述の株主間契約書も同様に)終了とすることが多い。 |
23: 契約当事者 | 通常、投資契約書の契約当事者は発行会社、創業株主、投資家であり、それぞれの投資家について別々に締結することが多い。 |
経営や運営に関する事項は、各ラウンドの各株主と個別に取り決めると「誰」に「何」をしないといけないのかわからなくなり、管理コストも上がるため、株主間契約書で統一しておくべきでしょう。
1: 事前承認・事前協議・事前通知 | 発行会社の重要な決定事項について、取締役会や株主総会で決議する前に株主に対して、それぞれ通知するか、(真摯に)協議するか、承認を取り付けるか、を発行会社に義務付ける条項。この他、情報提供されることだけで事足りる場合は事後報告にする場合もある。 |
|---|---|
検討のポイント・アドバイス | ・事前承認は、株主の承認がなければ実施ができない実質的な拒否権となり、経営の起動性が失われるため可能な限り避けるべき。やむを得ず設定する場合でも、その範囲を限定し、あわせて全株主ではなく多数優先株主の承認だけで足るようにしたい。 |
2: 情報開示 | 株主が、日々変化する発行会社の経営状況を把握するために、発行会社から株主に情報提供をさせることを定める条項。 |
検討のポイント・アドバイス | ・会社の所有者である株主が、発行会社に情報開示を求めるのは自然であるが、それが発行会社の実務上の負担にならないように配慮してもらうことが重要。 |
3: 取締役指名権およびオブザーベーションライト | 取締役指名権は、一定以上の持分比率を持つ株主が任意の取締役を派遣することできる権利。オブザーベーションライトは、一定以上の持分比率を持つ株主が取締役会やその他の重要な会議に任意の者をオブザーバーとして参加させることができる権利。 |
検討のポイント・アドバイス | ・取締役に就任した者は発行会社に対して忠実義務を負う。そのため発行会社と株主の利益が相反した場合でも、発行会社の利益を優先する義務があり、一概に取締役の派遣はスタートアップにとって悪いことではない。 |
4: 創業株主の専念義務 | 株主の事前承認なく、創業株主が取締役を辞任すること、再選を拒否すること、他の仕事を兼任することを禁止する条項。 |
検討のポイント・アドバイス | ・投資家がスタートアップに投資をする際の重要な評価軸のひとつが、創業株主の経営者であることから投資家からの資金調達を行うには必要な条項といえる。 |
5: 上場努力義務 | 発行会社と創業株主が、ファンド期限までに上場する「努力義務」を定める条項。期限までに上場ができない場合には、発行会社と創業株主が株主の保有する(譲渡制限のかかった)株式の譲渡に協力する義務を同時に定めることが多い。 |
検討のポイント・アドバイス | ・上場が合理的に可能であるにもかかわらず上場しない場合は、契約違反として発行会社が株主の保有する株式を買い取る、もしくは第三者に買い取らせる義務の規定を求められることがあるが、上場は経済や市場環境に左右されるため極力避けるべき。 |
6: 先買権 | 先買権とは、ある株主がその保有する株式を第三者に譲渡しようとした場合、他の株主が優先的にその株式を買い取れることを規定するもの。定款で定められる譲渡制限を補完し、好ましくない第三者に株式が渡るのを防ぐことを意図している。 |
|---|---|
検討のポイント・アドバイス | ・創業株主に対してだけ規定することが多いが、他の株主についてもこの範囲とすることを検討したい。 |
7: 共同売却請求権 | 共同売却請求権とは、ある株主がその保有する株式を第三者に譲渡しようとした場合、他の株主も一緒に売却できることを規定する条項。タグアロング(くっついていくという意味)ともいう。 |
検討のポイント・アドバイス | ・共同売却請求権を創業株主以外にも適用すると、株主のファンド期限を理由とした売却が難しくなるため、そのケースを予め除外しておく必要がある。 |
8: 新規株主の参加 | 新たに資金調達をした時などで、株主が増えた際には、新しい株主を株主間契約書の当事者として加えることを発行会社や創業株主に義務付けるもの。 |
検討のポイント・アドバイス | ・新しい株主が、株主間契約書の当事者になることを嫌がるケースがあるため、発行会社は予めデューデリジェンスの際に株主間契約書について開示をし、説明をする必要ある。 |
9: 優先関係 | 個別か共同かに関わらず、発行会社、創業株主、株主の間で締結された、株主間契約書以外の契約において、株主間契約書と矛盾する内容が定められている場合でも、株主間契約書の規定がそれらに優先して適用されることを定める条項。 |
検討のポイント・アドバイス | ・全ての株主が当事者となる株主間契約書において、優先関係を定めておくことで株主間契約書の実効性を担保できるようになる。 |
10: 強制売却権 | 一定の割合の株主が、提案されたM&Aの機会に賛同する場合、全株主が同時に売却することを義務付ける条項。ドラッグアロング(他を引きずって行くという意味)ともいう。 |
検討のポイント・アドバイス | ・株主のみならず、発行会社や創業株主にとっても、M&Aは有効なエグジット機会であり、その可能性を広げるためにも積極的に検討すべきと言える。 |
11: みなし清算条項 | みなし清算条項は、発行会社がM&Aされた場合、それを「会社清算したとみなし」その売却益の分配に、優先株式で規定される残余財産分配権と同じ内容を適用することを定めた条項。 |
検討のポイント・アドバイス | ・投資時のバリュエーションを上げる効果が期待される優先株式の実効性を担保するために必要な条項といえる。 |
12: 契約違反時の取扱い | 上記の投資契約書と同じ |
|---|---|
13: 契約の終了 | 上記の投資契約書と同じ |
14: 契約当事者 | 同時売却請求権やみなし清算を含む株主間契約書の実効性を担保するためには、発行会社と創業株主に加え、全株主または少なくとも重要な株主全員が当事者となることが必要。 |
※投資契約書や株主間契約書は、その成り立ちゆえに、投資家側を保護することを主眼に作られていることがほとんどだが、今後は発行会社を保護することを目的とした規定も検討されていくことを期待したい。具体的には、以下のような例が考えられる。
チェンジオブコントロール条項:譲渡制限の実効性を高めるため、株主の支配権が変わった時には契約を解除・変更できることを規定
ペイトゥプレイ条項:ダウンラウンドの際、追加出資した株主だけが希薄化防止条項や以後の新株引受権の対象になることを規定
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