STEP2
資金調達マニュアル
投資家の基本を理解する
著者
砂川 大
株式会社スマートラウンド
CEO
監修
伊藤 健吾
D4V
General Partner
スタートアップに投資をする主体は大きく分類するとエンジェル投資家、ファンド、事業会社の3つがあります。資金調達をする前に予め特徴を認識しておく必要があります。
エンジェル投資家 | ベンチャーキャピタル | 事業会社 | |
|---|---|---|---|
誰か | 元起業家などの資産家 | スタートアップ投資のプロ(パートナー+アソシエイト) | 事業会社の役員・従業員(取締役+担当者) |
資金源 | 個人の資金 | 第三者(LP)から集めた資金 | 事業会社の資金 |
目的 | キャピタルゲイン | キャピタルゲイン | シナジー |
ステージ | シード | 戦略により注力ステージが異なる、例えば | シナジー狙いなので、PMFしたミドル以降であるべきだが、そうでないケースもある |
投資規模 | 数百万円〜数千万円 | 数千万円〜数百億円 | 数千万円〜数億円 |
手法 | 1) 普通株式 | 1) 優先株式 | 1) 優先株式 |
審査方法 | 個人的な主観 | 組織的なデューデリジェンス | 社内稟議(CVCの場合はGP) |
提供価値 | ・知識 | ・知識 | 自社とのシナジー |
検討事項 | 悪徳エンジェルではないか反社・反市ではないか価値提供してもらえるかレスが早いか | ステージがあってるかフォーカスがあってるかいい評判か(担当者レベル)価値提供してもらえるか | ブレーキにならないか色がつかないか |
エンジェル投資家とは、スタートアップに投資する個人の投資家のことをいいます。こうした個人投資家の中には、エグジットを果たしたスタートアップの役員や社員、プロフェッショナル・ファームのパートナー、有名タレントやスポーツ選手などの資産家がいます。ただし、日本には個人投資家となるための明確な基準があるわけではないので、スタートアップに投資をしようと思えば、誰でもエンジェル投資家を名乗ることができます。
エンジェル投資家は、自分の資金を元手に投資をするので、投資するかどうか、どれくらいの金額を投資するのかなど、全て個人の判断基準で行われます。「標準的な投資手法」はありますが、必ずしも全てのエンジェル投資家がそれを実行しているわけではありません。この点が、ある程度「こうだろう」と想像ができるVCなどのプロの投資家とエンジェル投資家の大きな違いの一つです。
したがって、エンジェルから投資を受ける時には、その人がどんな人なのか、なにを目的に投資をしているのか、どんな投資方法をとるのか、などを慎重に吟味する必要があります。中には、スタートアップの常識を知らない人、ファイナンスの常識を知らない人、または知識があるのにあえてスタートアップを騙そうとする人など、いろんな人がいます。
特に気をつけたいのが、反社会的勢力や反市場勢力です。後者はあまり知られておりませんが、過去に悪質な証券トラブル等を起こした者や、取引所が想定している健全な市場運営を阻害する者を意味します。これらの個人から投資を受けてしまうと上場審査時に問題視されます。
「標準的な投資手法」を大まかにいえば、創業ラウンドからシードラウンドで、他のエンジェル投資家仲間と一緒に、それぞれ数百万円を、普通株もしくはコンバーティブル・エクイティで投資をして、そのラウンドでの希釈化を15%以内にとどめ、次のファイナンスが実現できるようにスタートアップをサポートする、というものです。
富裕層なんだから、もっと大きな額を投資してくれてもいいじゃないかと思われるかもしれません。しかし、失敗するリスクが一番高い時期である創業初期のスタートアップに投資する場合、よほど有望な投資機会でない限り、できるだけ分散投資することが鉄則なのです。1社に5000万円投資するくらいなら、50社に100万ずつ投資をして、順調に成長するスタートアップに追加投資をした方が投資が合理的となります。
なお、個人投資家といっても、投資元の名義は個人名になるとは限りません。ファミリーオフィスや資産管理会社からの投資になることもあります。こうした場合には、資産管理をプロに委託している可能性もあるので、投資判断の基軸がよりVCに近くなります。
資金以外にエンジェル投資家が提供してくれる価値は、その知識、経験、ネットワークです。特に起業経験のあるエンジェル投資家は、創業者の立場にたってサポートしてくれる可能性が高いでしょう。ただし、投資をしてくれたからといって、会社の役員などの役職についてもらう必要はありません。むしろ権限や給与を要求してくるエンジェル投資家は要注意です。また連絡しても返事がこないエンジェル投資家にも注意しましょう。最悪の場合、株主総会で決議できなくなる恐れがあります。
ベンチャーキャピタルとは、複数のスタートアップに対して、急成長するための資金を、ファンド(日本では主に投資事業有限責任組合)から、エクイティ(株式)投資の形で提供し、 その投資先がエグジット(株式上場やM&A)することにより、キャピタルゲイン(投資額と売却額との差分)を獲得することを目的とした組織です。
ファンドとは、複数の出資者の資金を蓄えておく入れ物のようなものです。そのファンドに、全体の数%をベンチャーキャピタル自身がGP(ジェネラルパートナー)として、残りの大半を金融機関や事業会社がLP(リミテッドパートナー)として出資します。
投資先がエグジットした時の株式等の売却額は一旦ファンドに戻され、(一般的には)ファンドベースで必要経費を差し引いたあと、まずLPに全出資額と期待金利分を分配し、資金が残ったら「先にLPに分配した金額の20%」に相当する額までGPに分配し、さらに資金が残ったらGP2:LP8の割合で分配します。
他社の資金を運用しているため、ベンチャーキャピタルは:
ファンドの運用成績(IRR=内部収益率とキャピタルゲインの倍率)を最大化することが唯一の目的となります
ファンド成績が良くないと次のファンドを組成することができなくなる可能性があるため、死活問題です
LPに対する説明責任があり、投資の審査はとても厳格に行います
ベンチャーキャピタルの投資案件のほとんどが、他のベンチャーキャピタル、士業、起業家、などから紹介されており、業界のネットワークや評判がなにより大切な業界ともいえます。したがって実績のあるベンチャーキャピタルの多くは、悪評がたたないように、スタートアップの味方として、常識的でプロフェッショナルな対応をしてくれます(もちろん例外はありますので、評判を聞くことは大事です)。
ベンチャーキャピタル、ファンドの分類の仕方はいろいろあります。それぞれの基軸から自社にあったベンチャーキャピタルを選ぶことが重要です。
ステージ | 全般的にどのステージでも投資ができるVC、アーリーやシードに特化したマイクロVC、シリーズA以降しかやらないVC、レイターに特化して巨額の投資をするVCなどがあります。 |
|---|---|
フォーカス | なんでも投資するVCもあれば、ネットサービス、ハードウェア、バイオ、エネルギーなどの大分類、SaaS、EC、メディアなどの小分類に注力している(または専門知識を持っている)VCもあります。 |
地域 | 地の利のある日本に特化したVCもあれば、分散投資をするために海外と日本の両方に投資をしているVCもあります。 |
リード性向 | リード投資家をより積極的にとりにいくVCもあれば、他VCとのシンジケート案件に力をいれているVCもあります。 |
サポート | スタートアップに対する手厚いサポートを提供するVCもあれば、ほとんど放置されるVCもあります。 |
これらの分類とは少し異なりますが、ファンドにはビンテージという考え方もあります。ワインのビンテージと同じように、ファンドの設立年ごとに傾向を見るものです。
スタートアップにとってもファンドのビンテージというのは、実は重要な意味を持ちます。ファンドは一般的にその運用期間が10年に限定されています。したがって、仮に5年前に設立されたファンドから出資を受けた場合、5年以内にエグジット(株式上場やM&A)することを求められ、それが叶わない場合には、最悪、株の買い戻しを要求される可能性もあります。
また、厳密にはベンチャーキャピタルとは違いますが、インキュベーターやアクセラレーターなどの類似組織もあります。
インキュベーターは「孵化装置」というその名前のとおり、起業前の個人のアイデアを、各種サポートをもって会社に仕立てあげ、そのタイミングで少額投資をする組織です。他方、アクセラレーターは、創業初期の会社にノウハウと資金を提供し成長を「加速」させ一定期間内にPMFを実現させる組織・プログラムをさします。ただし、両者ともに必ずしも投資がセットになっているわけではありません。
ベンチャーキャピタルから投資を受ける時は、その組織ではなくキャピタリスト(担当者)の評判や実績を調べることが重要です。本当に素晴らしいキャピタリストというのは、会社の成長を信じ、投資が実現するよう導き、投資後も惜しみなくサポートし、落ち込む時には叱咤激励し、親身に相談に乗ってくれ、喜びを分かち合える素晴らしい伴走者になってくれる人です。
キャピタルゲインをその唯一の目的とするベンチャーキャピタルは、ときに創業者と利益相反することもあります。それは例えば、もう少し頑張れば急成長できるという時に、M&A機会が訪れるケースです。こうした難しいジレンマの中でも、一緒にスタートアップにとっての最適解を考えてくれそうなキャピタリストを探しましょう。
なお、こうしたキャピタリストの評判は、その人が担当しているスタートアップの経営者から直接聞くべきでしょう。普段からスタートアップのネットワークを広げておくと、こうした場面でも役にたちます。
事業会社とは、個人でもベンチャーキャピタルでもない一般の会社のことです。昨今は、オープンイノベーションの旗印のもと、企業がスタートアップへの投資を加速させています。
これは、自社内だけでイノベーションを起こし将来のコアビジネスを生み出すことには限界があるため、積極的に社外との連携を図って新たな価値を創造していこうという動きです。特に日本の大企業は、多くの現預金を溜め込んで戦略的な投資ができず、企業価値向上ができていないと批判されがちなので、スタートアップへの投資に活路を見出す企業が増えています。
こうした背景から、事業会社の多くは純粋なキャピタルゲインよりも、自社事業に対するシナジー効果(相乗効果)を目的にスタートアップに投資をします。もちろん中にはキャピタルゲインに多少比重を置いている事業会社もありますが、主目的になることはほとんどありません(キャピタルゲインを狙うなら複数のVCファンドに分散投資した方が合理的)。
事業会社から資金調達するメリットは、主に二つあります。ただしこれらには後述するようにリスクも伴いますので、自社にあっているのか、しっかり検証することが重要です。
事業シナジー効果 | 自社事業と関係のある事業会社に株主になってもらうことで、事業シナジー効果が期待できます。 |
|---|---|
高いバリュエーション | 事業会社が主体的にスタートアップをバリューアップできる可能性があれば、その効果を織り込んで時価総額を高く見積もってくれる可能性があります(一概に良いこととも言い切れませんが)。 |
事業会社がスタートアップに投資する場合、投資する主体は以下の3つのパターンがあります。
1: プリンシパル投資 | 事業部主導で、自己勘定から直接投資をするパターンです。広義の事業投資とも言えます。 |
|---|---|
2: CVC(子会社GP) | 子会社をつくってそれをGPとしたファンドを組成し、企業自らがLPとなるパターンです。 |
3: CVC(外部GP) | ベンチャーキャピタルなどの第三者にGPとなってもらい、自社だけがLPとなる、いわゆる二人組合に相当するパターンです。 |
※CVCはコーポレート・ベンチャー・キャピタルの略です。
一般的には、1→2→3の順に事業会社との関係が薄くなっていき、3の外部のベンチャーキャピタルが運営しているCVCの場合、目的におけるキャピタルゲインの比重が大きくなります。それに伴っていろいろな側面での影響がでてきます。
投資の実行:1ではスタートアップの知識のない人たちが大勢関わることになるので、想定外のことがよく起きます。例えば、担当部署は全員賛成なのに、管掌役員が理由もなく土壇場で投資を見合わせるケースなどがあります。
モニタリング:事業会社が1のパターンでスタートアップに投資した際、投資契約に事前承認条項がついていると、承認が取れず経営のスピード感を失うケースがよくあります。さらに事業会社から役員を受け入れた場合「子会社出向した担当者」が自分の出世のためにスタートアップの経営を混乱させるケースもあります。
事業シナジー効果:特に3のパターンで、事業会社側の投資担当者に事業部に対する影響力がない場合、事業シナジーは絵に描いた餅になります。
スタートアップが積極的に事業会社から資金調達する場合、事業会社と同様になんらかの事業シナジー効果を期待していることが多いと思います。ただし残念ながら事業シナジーが当初の期待通りに生まれる可能性は、実際にはそれほど高くはありません。
まず大企業にとってスタートアップへの投資は全社的な経営戦略のほんの小さな一手でしかなく、オールイン(全額勝負)しているスタートアップとは事業に対する熱量が違います。戦略の見直し、人事異動、社内政治など事業の本質とは関係のない理由で、協業の可能性が簡単に潰れることもしばしば起こります。
また縦割り組織や従業員のインセンティブ設計により協業がはかどらないこともあります。例えばスタートアップが株主となる事業会社の販売網を活用して自社プロダクトを拡販したいというケースを考えてみましょう。投資元の事業部が販売網を管理している営業部を説得できないと実際には販売網は使えません。また名目上は使えることになっても営業スタッフのノルマや達成ボーナスが自社製品だけにリンクしていたら、営業スタッフがスタートアップのプロダクトを売りあるくことはないでしょう。
他方、投資を受けた時に考えられるデメリットの一つが「色がつくこと」、すなわち、ある事業会社から投資を受けたために、競合する別の会社との提携やM&Aの可能性が失われることです。スタートアップにとって、将来の可能性を狭めることは企業価値を毀損することになりかねません。
事業会社からの資金調達で失敗を避けるためには、パワーバランスを考慮に入れる必要があります。例えば、スタートアップの自社プロダクトがまだ売れ始めてもいない時に、売ってもらうことを期待して事業会社から資金調達しても、思い通りにはいかないでしょう。一方で、自社プロダクトが売れに売れてしょうがないような場面で、事業会社の方からどうしても投資して事業シナジーを実現したいと申し出があった場合には、双方にプラスのシナジー効果が働く可能性が高くなります。
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