2025-10-27

      グローバルのセカンダリーマーケット動向(前編)〜米国の最新動向とインサイト〜

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      はじめに

      スマートラウンド証券(※1)代表の加納です。

      本連載は、スタートアップエコシステムの関係者(起業家やCFO、投資家など)に、未上場株式のセカンダリーマーケットについて基本的な知識を広く伝えることを目的としています。

      これまで本連載では、未上場株式セカンダリーマーケットの基本的な解説から、スタートアップやVC、事業会社など各プレイヤー別の論点、新たな投資プレイヤーの参入や法務・税務論点について解説してきました(連載トップはこちら)。

      今回は「グローバルのセカンダリーマーケット動向(前編)」として、世界のセカンダリーマーケットの概況と、特に活況を呈する米国の状況を概観します。

      ※1:設立当初の商号は株式会社スマートラウンド戦略事業準備会社とし、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録完了後に商号変更を行う予定。


      ■連載一覧

      1. セカンダリーマーケット概論(前編中編後編

      2. 起業家から見たセカンダリーマーケット

      3. VCファンドから見たセカンダリーマーケット

      4. 事業会社や金融機関から見たセカンダリーマーケット

      5. PEファンドやグロースエクイティなどから見たセカンダリーマーケット

      6. 専門家から見たセカンダリーマーケット

      7. グローバルのセカンダリーマーケット動向(前編後編


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      世界のエグジット環境

      まず全世界のエグジット環境を俯瞰すると、IPOとM&Aが伸び悩むなか、セカンダリーが成長を続けている構造であることがわかります。

      CB Insightsの最新のエグジット環境レポート(State of Tech Exits H1'25)によると、テック企業のIPOは2025年上半期が122社となっており、2024年と同水準にとどまっています。2021年のピーク(734件)から80%以上減少した状態で、回復の兆しはあまり見られません。IPOによる調達額も111億ドルにとどまっており、驚くべきことに2025年3月にOpenAIが未上場の状態で資金調達した金額(約400億ドル)にすら及ばない金額となっています。M&Aについても同様に停滞しており、件数ベースでは前年比横ばいとなっています。

      これに対し、セカンダリーは7四半期連続(約2年間)にわたって対前年比で成長し続けており、減速の兆しは見られません。この成長の背景には、伝統的なエグジット手段であるIPOやM&Aの停滞に加え、スタートアップがIPOに至るまでの期間が著しく長期化していることがあります。2025年時点でIPOしたスタートアップが設立からIPOまでに要する期間は約16年であり、これは10年前と比べて4年以上も延びています。

      2025年、日本のIPO市場は大きく低迷し、セカンダリーへの注目が高まっていますが、これはグローバルトレンドの一部といえるでしょう。世界的に見ても伝統的なエグジットに代わってセカンダリーが新たな流動性供給の主役として台頭していることは、今後の日本のマーケットを考える上でも重要な示唆となります。

      米国の動向

      セカンダリートレンドを牽引するのは米国です。2024年から2025年の間だけでも、以下のようなユニコーン企業によるセカンダリー取引事例が次々と発表されています。

      企業

      バリュエーション

      取引額

      ポイント

      OpenAI

      約5,000億ドル

      約66億ドル

      ・2025年4月の資金調達時のバリュエーションから上昇

      SpaceX

      約4,000億ドル

      不明

      ・2024年12月時点のバリュエーションから上昇
      ・2024年には取引額約12.5億ドルでセカンダリーを実行したと報じられる(SpaceXによる自社株買いを含む)

      ByteDance

      約3,000億ドル

      不明

      ・Bytedance自身の自社株買いとして実行
      ・不透明な規制環境のもとIPOの不確実性が高まるなか、初期投資家と従業員にエグジット機会を提供

      Stripe

      約915億ドル

      不明

      ・売り手は現従業員と元従業員と初期投資家

      Canva

      約420億ドル

      不明

      ・買い手は Fidelity Management & ResearchとJ.P. Morgan Asset Management

      <出典>
      CNBC ”OpenAI wraps $6.6 billion share sale at $500 billion valuation” Oct,2,2025
      DEEPNEWZ “SpaceX Valuation Jumps to About $400 Billion in Secondary Sale” July,9,2025
      THE BUSINESS TIMES “SpaceX share sale values company at about US$350 billion” Dec,11,2024
      REUTERS “Australia's Canva begins share sale at $42 billion valuation” Aug,20,2025
      Private Equity Media “$2.43bn secondary sale of Canva shares” Apr,8,2024
      Stripe “Stripe、現・元社員への流動性提供のための公開買付を発表” Feb,27,2025
      CTOL Digital Solutions “ByteDance Launches Major Stock Buyback Amid $300 Billion Valuation and TikTok Regulatory Uncertainty” Oct,10,2024
      REUTERS “Exclusive: TikTok owner ByteDance sets valuation at over $330 billion as revenue grows, sources say” Aug,27,2025

      これらの事例において、特に注目すべき点は以下の3つです。

      1.アップラウンド

      多くの事例で、前回ラウンド(プライマリーまたはセカンダリー)よりもバリュエーションが大きく上昇しています。通常セカンダリー取引では前回ラウンドに対してディスカウントされた取引価格となることが多く、日本でもアップラウンドでのセカンダリー取引を公表している事例が存在しないなか(2025年時点)、米国での相次ぐアップラウンドは際立っています。
      こうしたアップラウンドは、こうしたユニコーン企業の好調な業績と今後の成長期待、および投資家の高い投資意欲を反映しているといえます。

      2.テンダーオファー

      セカンダリー取引のなかでも、スタートアップ(発行体)主導で流動化プログラムを提供する「テンダーオファー」がユニコーン企業において相次いで実行されています(テンダーオファーの解説は第1回連載を参照)。日本ではテンダーオファーの実行例がほとんど存在せず(2025年時点)、この点も日米の大きな違いです。
      米国では、スタートアップが従業員に対してテンダーオファーによる売却機会を提供することは、優秀な人材を採用・維持するための株式報酬制度として必須となっています。こうした報酬慣行、およびその背景にある数多くの成功事例(FacebookやTwitterなど)とカルチャーが、テンダーオファーが広く普及している要因といえます。

      3.自社株買い

      多くの事例で、外部の投資家のみならず発行体であるスタートアップ自身も買い手となっています。こうした「自社株買い」は、発行体が需給を調整し、適切な価格形成を促すうえでは重要な役割を果たしています。
      これに対し、日本では会社法上のいわゆる「財源規制」により、分配可能額を超えた自社株買いが困難です。財源規制は債権者保護のための重要なルールである一方、未上場株式の流動性を高めるうえでの障壁の一つとなっています(財源規制の詳細は第4回連載を参照)。

      なお、上記は米国を代表するユニコーン企業の取引例であり、こうした華々しい成功例だけが米国のセカンダリーマーケットの全てではない点には留意する必要があります。冒頭で解説した通り、米国におけるエグジット環境は必ずしも好調とはいえず、ユニコーン以外の大多数のスタートアップにおいても既存株主が売却を模索し、水面下で数多くのブロックトレードが実行されていると推察されます。

      「未上場であり続ける(Stay Private)」ためのセカンダリー

      こうした米国のトレンドから得られる重要な示唆は、米国のユニコーン企業は意思を持って「今はIPOしない」選択肢を選び取っているという点です。

      上述の事例が示す通り、米国のユニコーン企業の株式は高い流動性があり、シードアーリー期を主戦場とするシードVCや創業期を支えた役職員から、今後の成長を支えるグロース投資家への株主交代を実現することができます。また、プライマリーにおいても、これまで約2兆ドル規模の資金が未上場のスタートアップ企業に投じられており(先述のCB Insightのレポート参照)、資金供給環境も好調です。

      以上の背景を踏まえ、ユニコーン企業は無理にIPOして資金調達や売出しをする必要がありません。上場準備や上場後の開示等のコスト、さらには敵対的買収などのリスクを鑑み、スタートアップ自身が「未上場であり続ける(Stay Private)」資本政策を選択しています。そのうえで、市場環境や需給を見極め、最適なタイミングでIPOを実施し、上場後も急激な成長を遂げています。さらには、今後全くIPOしないユニコーン企業も出てくるでしょう。これは、日本のスタートアップエコシステムで長らく課題とされていた「IPOゴール」とは正反対の考え方といえます。

      日本のセカンダリーマーケット創出においても、スタートアップに「未上場であり続ける」選択肢を提供することは重要な使命です。

      おわりに

      本稿では、世界のエグジット環境の概況、および米国のセカンダリーマーケットについて、主にユニコーン企業によるセカンダリー取引の実例と特徴について解説しました。

      アップラウンドでのセカンダリー取引やテンダーオファーの隆盛など、日本とは大きく異なる取引慣行が見られます。未上場株式の高い流動性を背景に、ユニコーン企業が意思を持って「未上場であり続ける(Stay Private)」選択肢を選び取っている点は、エグジット環境が急変している日本のスタートアップエコシステムにとっても重要な示唆となるでしょう。

      次回の中編では、米国のセカンダリーマーケットを支える仲介者やプラットフォーマーについて解説します。

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