2025-07-24

      VCとセカンダリーマーケット 〜エグジットマネジメントと新たな投資戦略〜

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      はじめに

      スマートラウンド証券(※1)代表の加納です。

      本連載では、これまでセカンダリーマーケットの基本知識(前編中編後編)、およびスタートアップから見たセカンダリーマーケット(第4弾)について解説してきました。第5弾となる今回は、ベンチャーキャピタル(VC)から見たセカンダリーマーケットについて詳しく解説します。

      国内では2014年前後から設立されたファンドのうち約200本が今後3年で満期を迎えるとされており(参考)、VCの売却ニーズは非常に高まっています。また、東証グロース市場の上場維持基準の見直しなどの急速な外部環境の変化もあり、VCはセカンダリー取引をファンド運営に戦略的に組み込むことが求められています。

      本稿では、「エグジットマネジメント」と「セカンダリー取引を組み込んだ新たな投資戦略」という2つの観点から、VCとセカンダリーマーケットの関係について掘り下げていきます。

      ※1:設立当初の商号は株式会社スマートラウンド戦略事業準備会社とし、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録完了後に商号変更を行う予定。


      ■連載一覧

      1. セカンダリーマーケット概論(前編中編後編

      2. 起業家から見たセカンダリーマーケット

      3. VCファンドから見たセカンダリーマーケット

      4. 事業会社や金融機関から見たセカンダリーマーケット

      5. PEファンドやグロースエクイティなどから見たセカンダリーマーケット

      6. 専門家から見たセカンダリーマーケット

      7. グローバルのセカンダリーマーケット動向(前編後編


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      エグジットマネジメントの重要性の高まり

      これまでの課題

      (写真:IVS公式サイドイベント「セカンダリー徹底解説!基礎と最新トレンド〜業界トップランナーが語る、ここでしか聞けないセカンダリー取引の本質〜」(2025年7月2日)より)

      STRIVE代表パートナーの堤さんは、VCファンドのエグジットマネジメントについて重要な問題提起をしています。

      「スタートアップに投資する時、投資仮説を練り、しっかりとDDして投資決定するまでの間にかなりの労力と時間をかけている投資家は多いはずだ。一方で、EXITの際には、同じくらい深く考えて、行動に移しているのだろうか?(中略)IPOするまで拝んでおくのか、だいたいの株主間契約に、共同売却権が存在するので、どこか別の投資家が売却するときに一緒に乗っかっておけばいいと考えているのか

      堤さんが指摘する通り、これまでの日本のVCのエグジットはIPOが中心であり、その他のエグジットの選択肢も含めて十分に検討できているとは必ずしも言えない状況でした。

      しかし、東証グロース市場の上場維持基準の見直しの検討、および主幹事証券のスタンスの変化などを受け、従来のIPO偏重のエグジット戦略では十分なリターンを確保できないリスクが高まっています。また、M&Aの「のれん」の均等償却の見直し、およびセカンダリーマーケットの創設も含め、M&Aやセカンダリー取引といったエグジットの選択肢を考慮すべきタイミングが訪れています。

      エグジットマネジメントの実践

      堤さんは、エグジットマネジメントの骨子として、以下のポイントを指摘しています。重要なのは「ファンドの回収期間に入ったら早めにエグジットの検討を始め、投資先等とエグジットに関する対話を継続的に続ける」ことです。

      • ファンド組成から5~6年目:ファンドのエグジットポリシーを考えるべきタイミング

      • ファンド組成から7年目以降:ポリシーに従い、具体的なエグジットプランを考え、実行に移すタイミング

        例:

        ・IPOトラックに乗っている場合:投資先経営陣や主幹事証券と対話し、IPOの蓋然性を検証しつつ支援する

        ・黒字化しているがグロースレートが落ちている場合:事業の再成長の手段としてM&Aを検討する

        ・ファイナンスラウンドが予定されている:ミックスディールを通じ、新たな投資家にセカンダリー取引で売却してバトンを渡す

      最も避けるべきは、ファンド満期直前に慌ててエグジット検討を始める「駆け込みエグジット」です。こうなってしまうと、検討時間の不足により戦略的判断ができず、売り急ぎによる売却価格の低下によりファンドのパフォーマンスも悪化します。

      また、本来のバリュエーションを下回る価格での売却は、投資先スタートアップにおいても、次回の資金調達におけるダウンラウンドのリスクを高め、投資先の企業価値を毀損することにもつながります。このように、計画性のないエグジットはVC・LP・投資先といった各ステークホルダーにとって不利益となるため、戦略的かつ早期のエグジットマネジメントが不可欠なのです。

      さらに、VCの組織上、エグジットをどのように位置付けるかも重要なテーマです。エグジットの推進を誰に持たせるのか(GP・キャピタリスト・ファンドコントローラー・エグジット専任担当者)、KPIをどのように設計し、他のチームといかに協働するのかなど、いくつもの論点が存在します。

      各ファンドのポリシーや担当者のスキルやケイパビリティ、LP構成によっても組織設計は変わってくると思われます。まだベストプラクティスが確立していない現時点では、エグジットマネジメントで先行するVCから学ぶことも有効な選択肢です。

      受託者責任とセカンダリー取引

      また、2024年11月に公表された「ベンチャーキャピタルにおいて推奨・期待される事項」にも記載の通り、日本のVCにおいてもLPに対して受託者責任(Fiduciary Duty)を果たすべきという議論が高まっています。GP(無限責任組合員)はLP(有限責任組合員)に対し、リターンの向上に向けた取り組みと、LPに対する説明責任を果たす必要があります。

      セカンダリー取引を通じたエグジットにおいても、この受託者責任の観点が重要になります。具体的には、単一の買い手に対してのみ売却交渉をしていた場合、受託者責任の観点で十分な取り組みを行なっているのかが問題となる可能性があります。必ず複数の買い手に対して売却交渉を行い、相見積もりを取ることが重要です。必要に応じて仲介者を活用することも、LPに対する説明責任を果たすための有効な手段といえるでしょう。

      セカンダリーを組み込んだ新たな投資戦略

      これまで日本のVCは、プレシード・シードなど早いステージに低いバリュエーションで投資し、IPOを主なエグジットとして大きなリターンを狙うという投資戦略が中心でした。この手法は特大ホームランを生み出すポテンシャルがある一方、実態はハイリスクであることは否定できません。

      さらに、スタートアップの創業からIPOまでの期間が長期化する傾向にあり、仮にホームラン案件であってもファンド満期までに投資先のIPOが実現しないリスクは高まっています。AIスタートアップで活況な米国VCにおいても、IPOまでの道のりは遠く、VCファンドの投資回収が進まない点が課題として指摘されています(参考)。東証グロース市場の上場維持基準の見直しが進む日本においても、スタートアップがIPOに至るまでの期間は長期化することが見込まれます。

      IPO市場の低迷により、VCファンドのDPI(実現倍率、分配金累計額÷PIC[払込金額])の低迷が深刻な課題として指摘されています。Cartaが2025年3月に発表した「VC Fund Performance 2024」では、「2017年に米国で設立したファンドのうち、DPIが1倍を超えているのはわずか14%に過ぎない」という驚きのデータが示されています(Repeat Rhymeのポッドキャスト「2024年VCファンドパフォーマンスのレポートを深掘りした」でも紹介されていました)。

      (図:Carta「VC Fund Performance 2024」(2025年3月24日)より)

      こうしたなか、セカンダリーマーケットを活用した新たな投資戦略が注目されています。米国では2024年4月から2025年3月までの期間で、セカンダリー市場はエグジット全体の29.2%を占め、上場(27.7%)を上回る結果となりました(※2)。特にディープテックや創薬など事業化まで長時間を要するセクターでは、セカンダリーを主なエグジット手法とするVCファンドの登場が予想されます。セカンダリー取引により、シーズ探索や事業立ち上げを強みとするVCから、上市や量産化を強みとするVCや事業会社へと株主が円滑に交代できれば、スタートアップは各フェーズで最適な支援を得られ、産業全体の底上げも期待できます。

      また、売り手ではなく買い手として、VCファンドの投資戦略にセカンダリーを組み込むという新たな動きが注目されています。米国のAndreessen HorowitzやSequoiaなどの主要VCは、RIA(Registered Investment Advisor)ライセンスを取得し、セカンダリーを含めた様々なアセットクラスを組み込むようになっています。必ずしもシード投資による「ホームラン」狙いに限ることなく、近い将来のIPOが期待できるミドル・レイターフェーズのスタートアップに対するセカンダリー投資を活用した「一塁打・二塁打」を積極的に組み込むことが、DPI低迷に対する解決策の一つとなりえます。

      ※1:Matt Toledo, "As Exits Slow, Venture Secondaries Tick Up," Chief Investment Officer, July 15, 2025

      まとめ

      未上場株式のセカンダリーマーケットの発展は、VCファンドにとって単なる売買機会の拡大にとどまらず、投資戦略やエグジット戦略の根本的な見直しを促す転換点となっています。特に今年以降に設立される新設ファンドでは、従来の日本のVCの常識を覆す多様な戦略が登場することが予想されます。

      DPI低迷という構造的課題を克服し、VCがより信頼されるアセットクラスとなるためには、セカンダリーマーケットの活用が不可欠です。これにより、スタートアップへの資金流入の拡大と、ひいてはスタートアップを起点とする新産業の創出が加速することでしょう。

      次の連載では、事業会社から見たセカンダリーマーケットについて解説する予定です。

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