2025-06-04

      未上場株式セカンダリーマーケット概論(中編)〜セカンダリーに関する法規制や制度〜

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      はじめに

      スマートラウンド証券(※1)代表の加納です。

      本連載は、スタートアップエコシステムの関係者(起業家やCFO、投資家など)に、未上場株式のセカンダリーマーケットについて基本的な知識を広く伝えることを目的としています。

      前編では、未上場株式のセカンダリーマーケットの基本として、セカンダリー取引やセカンダリーマーケットの定義、セカンダリー取引の種類、およびセカンダリーマーケットが果たす機能について解説しました。

      今回は、日本でセカンダリー取引を行うにあたって準拠すべき法規制の枠組みについて、昨今の法制度の改正を踏まえて解説します(2025年6月時点)。なお、ここでご紹介する各制度は、セカンダリー取引のみならずプライマリー取引でも利用できるものが含まれている点はご留意ください。

      ※1:設立当初の商号は株式会社スマートラウンド戦略事業準備会社とし、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録完了後に商号変更を行う予定。


      ■連載一覧

      1. セカンダリーマーケット概論(前編中編後編

      2. 起業家から見たセカンダリーマーケット

      3. VCファンドから見たセカンダリーマーケット

      4. 事業会社や金融機関から見たセカンダリーマーケット

      5. PEファンドやグロースエクイティなどから見たセカンダリーマーケット

      6. 専門家から見たセカンダリーマーケット

      7. グローバルのセカンダリーマーケット動向(前編後編


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      金融商品取引法等による規制

      未上場株式のセカンダリー取引に関する諸制度を確認する前に、まず全体像として、株式などの有価証券の取引ルールを定めた金融商品取引法(金商法)について理解する必要があります。

      金商法は、投資者保護と市場の公正性・透明性の確保を目的として、有価証券の発行や流通を規制する法律です。この法律は、上場株式・未上場株式を問わず、発行体(株式会社)、売買当事者、仲介業者など、有価証券を取り扱うすべての関係者が遵守する必要があります。

      以降、本稿ではセカンダリーマーケットの担い手である仲介業者の規制にフォーカスして解説します。

      ■仲介業者に対する規制の概要

      金商法における仲介業者への規制は、証券会社や金融機関など、投資家と発行体の間で証券の売買を仲介する業者に対するもので、適正な業務運営の確保や投資家保護の措置などが義務付けられています。

      特に重要なのは、有価証券の仲介などの金融商品取引業を行うためには、金融商品取引業者として金融庁への登録が必要であることです。これは、投資家保護および公正かつ健全な市場運営のために、証券の仲介を行う者が適切な知識・経験・財産的基礎を有することを確保するためです。

      さらに、金融庁の登録を受けるためには、実務上、金融商品取引業者は日本証券業協会(日証協)へ加入することとなります。日証協は、証券業界の自主規制機関として、金商法の規制とは別に自主規制規則を定めており、日証協の会員はこれらの規制にも従う必要があります。

      ■未上場株式の投資勧誘の基本原則

      金商法においては、有価証券の投資勧誘について基本的な規制枠組みが設けられていますが、(未上場株式を含む)店頭有価証券については、日証協の自主規制により「原則勧誘禁止」という厳格な規制が採用されています

      具体的には、日証協の「店頭有価証券に関する規則」第3条において、「協会員(証券会社)は(中略)店頭有価証券については、顧客に対し、投資勧誘を行ってはならない」と規定されています。これは、店頭有価証券が一般的に流動性が低く、情報開示も限定的であることから、一般投資家を過度なリスクから保護するための措置です。

      ただし、これには例外措置が設けられており、日本証券業協会の定める特定の規則要件を満たすことで、未上場株式の投資勧誘を行うことが可能となっています。これらの投資勧誘制度の詳細については、次節以降で詳しく解説いたします。

      なお、現在金融庁と日証協が開催している「スタートアップ企業等への成長資金供給等に関する懇談会」では、店頭有価証券の「原則勧誘禁止」の枠組み自体を見直す検討が進められています(※2)。

      ※2:日本証券業協会「【資料2】本懇談会の論点と対応の方向性①」『スタートアップ企業等への成長資金供給等に関する懇談会』(第4回)(2025年5月13日)

      未上場株式セカンダリー取引において利用可能な制度

      上記の金商法や日証協の自主規制の基本構造を踏まえ、現在、未上場株式のセカンダリー取引において利用できる具体的な制度について説明します。

      ■店頭取引

      金融商品取引法に基づき内閣総理大臣の免許を受けて設立された金融商品取引所(一般的な取引所)では、そこに上場している株式については取引ができますが、未上場株式は文字通りそこに上場していないので取引することはできません。このため、未上場株式のセカンダリー取引は取引所を介さず、証券会社やプラットフォーマー等との間で行う「店頭取引」が基本となります。

      前述の「原則勧誘禁止」という規制枠組みの中で、未上場株式の店頭取引を可能とするため、金融庁や日本証券業協会(日証協)により様々な制度が設置され、投資家保護を図りつつ取引の利便性向上を目的として継続的に改善が進められています。以下では、これらの制度について解説します。

      ① ブローカレッジ(証券会社による仲介)

      証券会社が仲介業者として、売り手と買い手をマッチングする形態です。

      第一種金融商品取引業者(いわゆる証券会社)は、有価証券の売買や売買の媒介等の業務を行う事業者で、野村證券やSMBC日興証券などの大手証券会社や銀行系の証券会社などが該当します。これらの事業者は従来から未上場株式の取り扱いが可能ですが、第一種金融商品取引業の登録には資本金や自己資本規制比率などの厳しい要件、および厳格な人的要件が課されており、新規参入のハードルが高い状況でした。

      このような背景から、2025年5月に施行された改正金融商品取引法では、未上場有価証券のセカンダリー取引の活性化を目的として、「非上場有価証券特例仲介等業務」に係る特例が創設されました(※3)。この特例制度では、未上場株式の取り扱いに限定することを条件に各種要件の緩和が行われたことで、未上場株式を専門的に取り扱う事業者の新規参入を促進し、セカンダリーマーケットの担い手を増やすことが期待されています(2025年6月4日時点でこの特例に関する登録を得た事業者はいませんが、当社スマートラウンドの子会社は取得に向けて準備を進めています。)。なお、この特例を利用する証券会社が勧誘する買い手は特定投資家(プロ投資家)に限定されており、一般投資家は対象外であることには留意が必要です。

      ※3:日本経済新聞「非上場株で調達しやすく 新興向け売買仲介の新制度」(2023年12月12日)

      この非上場有価証券特例仲介等業務も含めた第一種金融商品取引業者(いわゆる証券会社)が利用できる未上場株式の仲介制度はいくつか存在します。

      <特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)>

      特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)は、証券会社を通じて、未上場企業の株式などを特定投資家向けに発行・流通することを可能にする制度です。「J-Ships」という名称は、「JSDA(※4) Shares and Investment trusts for Professionals」の頭文字に由来しています。

      ※4: JSDAとは日本証券業協会の略称(Japan Securities Dealers Association)

      J-Shipsの特徴は以下の通りです。

      • 取引参加者: 特定投資家(プロ投資家)のみ

      • 取扱証券会社: 日本証券業協会から「取扱協会員」として指定を受けた証券会社のみが取り扱いできます。

      • 留意点: 特定投資家以外の者への譲渡が制限される

      J-Shipsの取扱協会員として、野村證券やみずほ証券、SMBC日興証券などの国内大手証券が名を連ねております。2024年3月、野村證券がJ-Shipsを活用して五常・アンド・カンパニー株式会社およびエレファンテック株式会社の未上場株式の投資勧誘・販売を行い、大きな注目を集めました(※5)。

      ※5:野村證券「特定投資家向け銘柄制度を活用した非上場株式の取扱いを開始」(2024年3月29日)

      出典:日本証券業協会「特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)制度概要(投資家向け)」

      <適格機関投資家に関する投資勧誘(プロ私募)>

      適格機関投資家とは、金融商品取引法で定義される「有価証券に対する投資に係る専門的知識及び経験を有する者」で、銀行、保険会社、証券会社、投資法人などの金融機関や、一定の要件を満たす法人・個人が該当します。この適格機関投資家に対してのみ勧誘を行うことを通称「プロ私募」と呼びます。制度の特徴は以下のとおりです。

      • 対象投資家: 適格機関投資家のみ

      • 募集人数の制限: なし

      • 留意点: 適格機関投資家以外の者への譲渡が制限される

      <企業価値評価可能な特定投資家に関する投資勧誘(少人数私募)>

      この制度は、自らの責任において企業価値評価(DD)を行う能力を有する特定投資家を対象とした投資勧誘制度です。特徴は以下のとおりです。

      • 対象投資家: 企業価値評価が可能な特定投資家

      • 人数制限: 49名以下(少人数私募・私売出し)

      • 留意点: 投資家から企業価値評価を自ら行う旨の表明・確約書の取得が必要

      これらの制度は、投資家の専門性や対象有価証券の性質に応じて、投資家保護と市場機能のバランスを調整する仕組みとなっています。

      出典:日本証券業協会「『特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)』に関するQ&A」
      ※一番右の「特定投資家に対する投資勧誘(特定投資家投資勧誘規則)」がいわゆるJ-Ships

      ② 株主コミュニティ

      日本証券業協会が運営する制度で、特定の企業の株主や投資に関心のある投資家が参加できるコミュニティです。

      株主コミュニティは、日本証券業協会が2015年5月に創設した、未上場株式の取引制度です。地域に根差した企業等の資金調達を支援する観点から、未上場企業が発行する株式の取引ニーズや換金ニーズに応えることを目的としています。この制度では、証券会社が未上場株式の銘柄ごとに株主コミュニティを組成し、当該コミュニティに参加する投資家に対してのみ投資勧誘が認められています。

      参加者は、会社関係者(創業者・役職員・その親族・株主・継続的な取引先)や成長企業への資金供給を支援する意向のある投資者などに限定されています。2025年1月時点では38銘柄が取り扱われ、9社の証券会社が運営会員となっていますが、年間の約定金額は約9億円(2024年)にとどまり、流動性は限定的です。

      ③ 株式型クラウドファンディング

      インターネットを通じて多数の投資家から小口の資金を集める仕組みです。他の制度と比較したときの特徴は、一般投資家に未上場株式への投資機会を提供している点です。一部の株式型クラウドファンディングでは、セカンダリー取引の機会を提供しています。

      株式型クラウドファンディングのポイントは以下の通りです。

      • 特定投資家(プロ投資家)だけでなく、一般投資家も投資することができます。

      • クラウドファンディング業者は、投資経験や預り資産等についての取引開始基準を定め、この基準を満たしていることを含めた適合性を確認できた投資家に対して勧誘を行います。

      • 多くの場合、値上がり益(キャピタルゲイン)に加え、投資する会社やその事業に対する共感や支援という側面が重視されます。

      • 申込金額が目標額に達しない場合、一般的には案件はキャンセルとなり、投資家に返金されることが多いです。

      近年、株式型クラウドファンディングに関する規制緩和が進んでおり、金融審議会の「資産運用に関するタスクフォース」が 2023 年 12 月に公表した報告書(※6)では、企業の発行総額上限の引き上げ(1億円未満から5億円未満に)や一般投資家の投資上限額の引き上げ(一律50 万円から年収や純資産に応じた上限設定に)が明記されました。

      また、一部の株式型クラウドファンディング運営事業者では、先述の株主コミュニティ制度と連携し、セカンダリー取引の機会を提供するサービスを開始しています。これにより、株式型クラウドファンディングで取得した株式につき、流動性が確保される可能性が広がりつつあります。ただし、取引は運営事業者が設けるコミュニティ内に限定される点には留意が必要です。

      ※6:金融審議会「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」(2023年12月12日)

      ■参考:PTS(私設取引システム)

      PTS(私設取引システム)は、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者(いわゆる証券会社)が運営する電子取引システムです。日本には上場株式を対象とするPTSはいくつか存在するものの、未上場株式を取り扱うPTSは2025年4月時点ではまだ存在していません。

      このPTSについても、先述の金融商品取引法改正により、未上場株式の取り扱いの見直しが行われました。改正法では未上場株式を取り扱うPTSの参入規制や、運営上の規制が緩和されました。この法改正により、PTSを活用して未上場株式のセカンダリー取引機会を提供するプレイヤーの参入が期待されています。

      なお、PTSは電子取引システムの一種であり、上記の①〜③のような投資勧誘制度とは性質が異なります。PTSは、ブローカレッジや株主コミュニティなどの制度を活用する際の取引基盤として利用されるものです。それはすなわち、①〜③のような投資勧誘制度を行う場合でもインターネットを活用してマッチングを行う場合にはPTSに該当するというルールとなっています。

      出典:日本証券業協会「特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)制度概要(投資家向け)」

      なお、これまで解説した制度以外にも、成長企業が利用できる市場として東京証券取引所が運営するTOKYO PRO Marketが存在します。しかし、これは形式的には上場に該当すること、及び2025年現在では流動性が限定的でありスタートアップによる活用事例もまだそれほど多くはない(※7)ことから、本稿では割愛します。

      ※7:2024年12月には、VCファンドから出資を受けたBABY JOB株式会社がTOKYO PRO Marketに上場し、初の売り出しを行ったことが、既存投資家に対する新たなエグジット機会の提供として注目されました(日本経済新聞「東京プロマーケット初の売り出し 新興育成の契機に」(2024年12月20日))しかしTOKYO PRO Marketは日次の平均売買代金は約2,000万円(2024年)にとどまるなど、他市場と比較して著しく流動性が低い点が課題として指摘されています。

      まとめ

      今回は、未上場株式のセカンダリー取引を規制する金融商品取引法の基本構造から始まり、現在利用可能な具体的な制度について解説しました。

      後編では、セカンダリーマーケットの主要プレイヤーについて解説します。

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