
2025-10-02
セカンダリーマーケットの法務・税務面の主要論点 〜先買権・共同売却権・譲渡承認、みなし譲渡課税・売委託〜
はじめに
スマートラウンド証券(※)代表の加納です。
本連載は、スタートアップエコシステムの関係者(起業家やCFO、投資家など)に、未上場株式のセカンダリーマーケットについて基本的な知識を広く伝えることを目的としています。
未上場株式のセカンダリー取引に対して注目が集まっていますが、セカンダリー取引にはプライマリー取引(資金調達)にはない特有の論点が多数あり、注意して進めないと円滑に取引が進まないという課題があります。特に法務面・税務面では注意すべき事項がいくつか存在します。
2025年現在、セカンダリー取引に初めて取り組むスタートアップや投資家が多いこともあり、こうした方々を支える専門家(特に弁護士・税理士)の果たすべき役割は非常に大きくなっています。
本稿では未上場株式のセカンダリー取引における法務・税務面での論点に焦点を当て、解説します。
また、税制適格ストックオプションを上場前に行使して第三者に売却する「テンダーオファー」の場合に租税特別措置法上で注意すべき「売委託」の論点についても、併せて解説いたします。
<免責事項>
本稿は法的あるいは税務上の助言を目的とするものではありません。実際にセカンダリー取引を行う場合は、個々の案件の状況に応じた適切な助言を専門家に求めてください。特に定款や締結済みの投資契約や株主間契約によっても適切な対応は異なるため、セカンダリー取引を実際に行う際はこれらの書面を確認のうえ、必要に応じて専門家の支援を受けることが重要です。
※設立当初の商号は株式会社スマートラウンド戦略事業準備会社とし、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録完了後に商号変更を行う予定。
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先買権(Right of First Refusal)
先買権の定義と基本的な仕組み
先買権(Right of First Refusal)とは、株主が保有する株式を第三者に売却しようとする場合に、他の株主が当該株式を優先的に買い受けることができる権利のことです。多くの場合、株主間契約で定められます。
具体的には、売り手となる株主が買い手候補と売却条件を協議した後、売却条件を先買権を保有する他の株主に通知します。通知を受けた株主が先買権を行使する旨の通知を行った場合、売り手は先買権行使者に株式を売却する仕組みです。

先買権には主に以下のようなバリエーションが存在します。
先買権者の範囲(全ての優先株主・一部の優先株主・経営株主・発行体)
共同売却権の適用対象範囲(全株主の売却で適用される・経営株主による売却のみ適用される)
買い取ることができる株式の量(全て・一部のみ)
行使期間(通常30日)
先買権および後述する共同売却権については経済産業省「我が国における健全な ベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」でも解説されています。必要に応じてご確認ください。

※引用元:経済産業省「我が国における健全な ベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」2022年3月から抜粋
先買権とセカンダリー取引
先買権のセカンダリー取引における位置づけは、セカンダリーの各取引主体によって異なります。売り手にとっては当初交渉していた買い手とは異なる売却先とはなるものの、当初の条件で他の株主に売却できるため、経済的には大きな変化はありません。しかし買い手にとっては投資機会を失うことになりうるため、先買権が行使されるかは重要な課題です。
特に発行体が先買権を保持することが多い米国のセカンダリー実務においては、発行体が有する先買権(RoFR)がセカンダリー取引の成否に大きな影響を及ぼしています。
※野村総合研究所「スタートアップ企業等への成長資金供給等に関する懇談会 調査報告資料(海外実務家ヒアリング調査を中心に)」2025年4月8日
セカンダリー取引で買い手となる投資家および支援する専門家は、取引対象となる株式に関する先買権の定めをあらかじめ確認し、行使が予想される他の株主の意向を早めに確認するといった対処が必要となります。
共同売却権(Tag Along / Co-Sale)
共同売却権の定義と基本的な仕組み
共同売却権(Tag Along / Co-Sale)とは、株主が保有する株式を第三者に売却しようとする場合に、他の株主も同じ条件で当該第三者に株式を売却できる権利です。売却参加権や共同売却請求権と呼ばれることもあります。多くの場合、株主間契約で定められます。
通常は先述の先買権の行使有無の確認を経た後に第三者への売却が行われる場合、他の株主が共同売却権を行使して同一条件で売却することになります。

共同売却権には主に以下のようなバリュエーションが存在します。
共同売却権者の範囲(全ての優先株主・一部の優先株主)
共同売却権の適用対象範囲(全ての株主の売却で適用される・経営株主による売却のみ適用される)
買い取ることができる株式の量(全て・一部のみ)
行使期間の定め方(先買権の権利行使確認と合わせて30日、先買権の権利行使確認とは別に30日)
共同売却権とセカンダリー取引
共同売却権はセカンダリー取引の成否に大きく影響を及ぼします。特に、共同売却権の行使により増加した売却金額が買い手の投資可能金額を超えた場合、取引が破談となることもあります。
米国では共同売却権の適用対象となる売却は経営株主による売却に限定されているため、実際に共同売却権が行使される事例はそれほど多くありません。
※日本証券業協会「スタートアップ懇談会第3回会合後意見照会の結果」2025年5月13日
しかし日本では全株主の売却で共同売却権が適用される定めが多いことから、共同売却権が行使される事例も少なくありません。「共同売却権の行使→他の買い手を探索→さらに共同売却権を行使...」といったループ構造になることもあるようです。
そのため、セカンダリー取引の売り手となる株主や買い手となる投資家、および支援する専門家は共同売却権の定めをあらかじめ確認し、行使が予想される他の株主の意向を早めに確認するといった対処が必要となります。
譲渡承認
未上場株式のセカンダリー取引において、譲渡承認は重要な論点の一つです。
多くの未上場企業では定款において株式の譲渡制限を定めており、この場合には株主総会や取締役会などでの承認が必要となります。さらに投資契約書や株主間契約書にも譲渡時の事前承諾や通知などが定められています。
譲渡承認に関する詳細は、連載第4回「スタートアップとセカンダリーマーケット 〜経営者・人事・バックオフィスが持つべき視点」をご参照ください。
みなし譲渡課税
みなし譲渡課税の定義と基本的な仕組み
みなし譲渡課税とは、個人が法人に対して資産を時価よりも著しく低い価額で譲渡した場合に、時価で譲渡があったものとみなして譲渡所得を計算し、課税を行う制度です。所得税法第59条に規定されています。
具体的には、個人が法人へ未上場株式を譲渡する場合に、対価が税務上の時価よりも著しく低い価額となっているときは、時価と対価の差額についてみなし譲渡があったものとされ、譲渡所得の計算上、収入金額は対価(売買金額)ではなく「税務上の時価」をベースにして計算されることになります。
※この他、個人から個人に譲渡した場合の「みなし贈与」課税にも注意が必要ですが、本稿では説明を割愛します。
スタートアップのセカンダリー取引におけるみなし譲渡課税のリスク
個人の株主がセカンダリー取引で売却する場合、特に相場価格よりもディスカウントして買った場合に「みなし譲渡課税」が適用され、売り手が想定以上の税負担を負う可能性があります。特にスタートアップは短期間に急激にバリュエーションが増大することが多いため注意が必要です。
よくあるケースが、創業時に親類に出資してもらった後に急成長し、IPO準備プロセスにおいて株主構成を整理する際に直近バリュエーションだと高くて買い取るのが難しいというものです。ここで創業者がディスカウントした価格で買ってしまうとみなし譲渡課税が適用され、売り手に想定以上の税負担が発生することになります。
【例】
会社設立時に親から100万円出資を受ける
その後に急激に会社が成長し、親が保有する株式の税務上の時価は3,000万円まで上昇
相続リスクを考慮し、創業者の資産管理会社が300万円で親類から買い取る
→売り手は3,000万円で譲渡したものとみなされ、2,700万円の譲渡益に課税(みなし譲渡課税)
※なお買い手(資産管理会社)にも2,700万円の受贈益が発生し、法人税の対象となる
みなし譲渡課税の適用判断
みなし譲渡課税の適用を判断する際に重要なポイントは「純然たる第三者間」の取引であるかという点です。「純然たる第三者間」の取引とは、売り手と買い手の間に特別な身分関係がなく、取引当事者が恣意的な価格設定をせず、それぞれが独立した立場で合理的な判断に基づいて行う取引のことを指します。買い手が親戚や関連会社、役員や取引先など、発行体や売り手と何らかの関係がある者でない場合においては、「純然たる第三者」とはならない可能性があります。
「純然たる第三者間」の場合はその価額は客観的な交換価値を表しているといえ、税務上の時価として認められます。このため、みなし譲渡課税の適用はなく、譲渡益に対する課税関係だけが発生します。
ただし、こうした場合でも取引交渉の経過次第ではみなし譲渡課税が適用される可能性も存在します。みなし譲渡課税の適用要件および前提となる「税務上の時価」の算定は売買事例の有無や取引主体(法人または個人)によって異なり、複雑な制度です。特に個人がセカンダリー取引で売却する際には税理士等の専門家に相談することが重要です。
租税特別措置法上の「売委託」
「売委託」とは、株式等の売り手が金融商品取引業者に売付けの媒介等を委託することです。この「売委託」が論点となるのは、主に税制適格ストックオプション(以下「税制適格SO」)を上場前に行使し、取得した株式を譲渡する、いわゆる「テンダーオファー」のケースです。
税制適格SOの税制優遇を受けるためには、租税特別措置法および同施行令に定められた要件を満たさなければいけません。その要件の一つとして、上場前の行使により取得した株式は「証券会社等に保管の委託」をするか、「発行会社自身による株式管理スキーム」で管理する必要があります。令和6年度税制改正以降、多くの未上場企業では後者の「発行会社自身による株式管理スキーム」を採用しています。
発行会社自身による株式管理スキームで管理されている株式を譲渡する場合、租税特別措置法施行令の規定により、譲渡先の区分に応じた手続きが求められます。具体的には、譲渡先が「法人以外の第三者」であるときは、金融商品取引業者への「売委託」により譲渡を行う必要があります(租税特別措置法施行令19条の3第9項3号)。
セカンダリー取引の買い手が国内外の組合型ファンドである場合、この「法人」に該当しない可能性があり、この場合は金融商品取引業者への売委託が必要となります。売委託を行わずに譲渡した場合、税制適格の要件を満たさなくなる可能性があるため、特に注意が必要です。
このように、テンダーオファーを検討する際には売委託の要否や具体的な手続きについて確認することが必要です。詳細については弁護士や税理士などの専門家にご確認ください。
まとめ
本稿では、未上場株式のセカンダリー取引における主要な法務・税務論点について解説しました。先買権や共同売却権、譲渡承認、みなし譲渡課税など、いずれも実務上重要な論点であり、取引の成否やリターンに大きく影響する可能性があります。
セカンダリー取引を検討される際は、必ず弁護士や税理士などの専門家と相談のうえ、個々の案件に応じた適切な対応を取られることを強くお勧めします。
次回は「グローバルのセカンダリーマーケット動向」として、世界各国のセカンダリーマーケットの最新動向について解説する予定です。


