
2025-06-16
未上場株式セカンダリーマーケット概論(後編)〜セカンダリーマーケットの担い手〜
はじめに
スマートラウンド証券(※1)代表の加納です。
本連載は、スタートアップエコシステムの関係者(起業家やCFO、投資家など)に、未上場株式のセカンダリーマーケットについて基本的な知識を広く伝えることを目的としています。
前編では未上場株式のセカンダリーマーケットの基本として、セカンダリー取引やセカンダリーマーケットの定義、セカンダリー取引の種類、およびセカンダリーマーケットが果たす機能について解説しました。また、中編では日本でセカンダリー取引を行うにあたって準拠すべき法規制の枠組みについて解説しました。
今回の後編では、未上場株式セカンダリーマーケットの主な担い手(主な取引当事者や支援者)について取り上げていきます。それぞれの担い手の詳細については今後の連載で深掘りしていく予定です。
※1:設立当初の商号は株式会社スマートラウンド戦略事業準備会社とし、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録完了後に商号変更を行う予定。
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未上場株式セカンダリーマーケットの主な担い手
まず、セカンダリーマーケットの主な担い手は以下です。未上場株式の売り手・買い手とそれを仲介する仲介者の立場に分類することができます。
種別 | 立場 | ポイント |
|---|---|---|
スタートアップ | 売り手 | ・譲渡承認の主体 |
創業者 | 売り手 | ・未上場株式の売却を通じて経済的な余裕を得て、さらなる成長の糧にすることができる |
役職員 | 売り手 | ・米国ではテンダーオファーによる売却事例が数多く存在 |
ベンチャーキャピタル(VC) | 売り手 | ・数多くのファンドが満期を迎えており、非常に強い売却ニーズが存在 |
事業会社 | 売り手 | ・シナジー目的の投資観点でポートフォリオの入れ替えニーズが存在(売り・買いとも) |
セカンダリーファンド | 買い手 | ・日本ではまだ数が限られるが、今後増加が見込まれる |
グロースエクイティ | 買い手 | ・PEファンドや上場株ファンドがグロースエクイティに進出するケースが増加中 |
証券会社・プラットフォーマー | 仲介者 | ・グローバルでは数多くのプレイヤーが存在 |
さらにそれぞれの担い手について解説していきます。
スタートアップ・創業者・役職員
1. スタートアップ
多くの未上場企業では定款で株式の譲渡制限を定めているため(※2)、スタートアップはセカンダリー取引の可否を決定する重要な権限を有しています。
また、既存株主からの売却意向を受けた際は、創業者やCFOなどの経営陣が自社にメリットのある買い取り先(投資家)を探したり、財源規制を満たしている場合には発行体による自社株買いを検討するといった形で関与したりすることもあります。
ただし、譲渡承認や自社株買いでは注意すべき点が数多く存在します。(これらについては今後の連載で詳述します)
最近のスタートアップにおけるトレンドとしては、新規の資金調達(プライマリー取引)と同時に、一部の既存株主が保有株式を売却するセカンダリー取引を行う、いわゆる「ミックスディール」を実行するケースも増えています。ミックスディールは、スタートアップが成長資金を調達しつつ、既存株主に流動性を提供する手法として注目されています。(ミックスディールの詳細も、今後の連載で詳述します)
※2:一般的に未上場企業では定款において株式の譲渡制限を定めており(会社法上の「非公開会社」)、この場合には株主総会または取締役会の承認が必要となります。なお、「未上場企業」と「非公開会社」は異なる概念であり、未上場企業であっても株式の譲渡制限を設けていない「公開会社」である場合もあります。
2. 創業者
創業者も他株主と同様に、未上場株式のセカンダリーマーケットを通じて保有株式の一部を売却する機会を得ることができます。スタートアップの創業者は会社や事業が大きく成長するまで役員報酬を抑えていることも多く、保有株式の現金化を通じて経済的な不安を払拭し、より長期的視点でリスクテイクできる環境を整えることは非常に重要です。
ただし、創業者による保有株式の売却の場合は、既存株主や従業員などのステークホルダーとの十分な合意形成と説明が不可欠です。創業者が自身の保有株式を売却することは、会社の将来性に対する疑念を抱かせる可能性があるため、留意する必要があります。
3. 役職員
役職員はセカンダリーマーケットにおいて、主にストックオプション(SO)を行使して得た株式を売却することになります。税制適格要件を踏まえると、SO自体を直接売却するのは困難であり、セカンダリー取引で売却するにはSO行使→株式の交付→売却のステップが必要となります。
日本では最近まで保管委託要件が存在していたことから税制適格SOの上場前行使が事実上不可能でしたが、令和6年度税制改正でこの保管委託要件が撤廃され、ようやく可能となりました。
役職員の売却については、米国では前編で紹介した発行体主導の流動性プログラム「テンダーオファー」を通じて売却機会を提供することが多く見られます。テンダーオファーによる役職員の売却は、株式報酬のインセンティブ効果を大きく高めるものであり、中長期的には必ず実現すべきテーマといえます。
ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタル(以下 VC)によるセカンダリーでの売却は、主にファンドの満期によるものが中心です。国内では2014年前後から設立されたファンドのうち約200本が今後3年で満期を迎えるとされており、VCの売却ニーズは非常に高まっています(※3)。2025年2月の日本経済新聞の調査では、国内の主要VC100社のうち8割が未上場株式の売買に前向きという結果が示されており、このニーズの高さが裏付けられています。
ファンドの満期に伴う対応としては、必ずしもセカンダリー取引に限らず、ファンド期間の延長や、前編でご紹介したGP主導セカンダリーといった手法を取ることも可能です。ただし、ファンドに出資するLP投資家との利益相反の問題もあり、一部反対するLP投資家が「抜ける」という選択肢を提供するLP主導セカンダリーがまだ定着していない日本では、難しさが残ります。
さらに、グロース市場の上場維持基準の変更やセカンダリーマーケットの創設に伴い、VCの投資戦略やエグジット戦略にも新たな動きが生まれています。
※3:日本経済新聞「VC、8割が未上場株売買に前向き 満期のファンド急増で」2025年2月5日
事業会社
事業会社には、未上場株式のセカンダリー取引において売り・買いいずれのニーズも高まっています。
・売りニーズ:ポートフォリオの整理
売りニーズの要因として、事業会社が保有する株式のポートフォリオの見直しがあります。
これまで事業会社は、いわゆるオープンイノベーション戦略に基づくスタートアップへの投資活動を進めてきました。この手法としてCVC(Corporate Venture Capital)を組成する方法のほか、事業会社本体から直接投資(BS投資)する事例も数多く見られます。
しかし投資実行から年月が経ち、期待したシナジーが生み出せない場合、その株式を整理する動きが生じることになります。こうしたポートフォリオの入れ替えは、事業会社にとって新規投資の原資確保につながります。スタートアップにとってもよりシナジーの見込める新たな事業会社との資本提携の機会創出につながるなど、全ての関係者にとってプラスになる可能性があります。
・買いニーズ:M&Aを見据えた資本提携
買いニーズの高まりの背景には、M&Aニーズの高まりがあります。これまで日本ではスタートアップのM&Aによるエグジットは数が限られてきましたが、近年確実に件数は増加しつつあります。さらに、内閣府の規制改革推進会議スタートアップ・イノベーション促進ワーキンググループでは、M&Aのいわゆる「のれん」の会計処理の在り方の見直しが議論されるなど(※4)、今後さらなる増加が期待されます。将来的なM&Aに向けた資本提携の手段として、セカンダリー取引を通じた投資が拡大することが見込まれます。
また、M&A以外にも事業会社によるポートフォリオの入れ替えニーズも存在します。セカンダリーマーケットの大きなメリットの一つは「任意のタイミングで」株主になれる点であり、スタートアップの事業に進捗があった時や、事業提携が進んで実際にシナジーが見込めるタイミングで、既存の株主から株式を買い受けることが可能になります。詳細については今後の連載で解説する予定です。
※4:内閣府「第4回 スタートアップ・イノベーション促進ワーキング・グループ 議事次第」2025年3月28日
セカンダリーファンド
セカンダリー取引における代表的な買い手として、まずセカンダリーファンドが挙げられます。
米国では業界最大手であるIndustry Venturesを筆頭にセカンダリーファンドが次々と創設され、投資規模を拡大しています。また、Lightspeed、a16z、Sequoiaもといった大手VCもRIA登録(※5)し、セカンダリー取引をできる体制を強化しています。
これに対し日本ではこれまでセカンダリーファンドがほとんど存在しませんでしたが、2022年にダイレクトセカンダリー専業ファンドの設立を発表したケップルを皮切りに(※6)、国内でも複数の実例が生まれています。
なおセカンダリーファンドが取り扱うセカンダリー取引は、スタートアップが発行した株式を売買する「ダイレクトセカンダリー」に限らず、前編で解説したGP主導セカンダリーやLP主導セカンダリーが含まれます。これらが今後、日本でどのように普及していくのかも注目です。
※5:RIA(Return on Investment Authority)は、米国においてVCなどの運用会社がSEC(証券取引委員会)が定める20%の制限を超えてオルタナティブ投資を行うことを可能にする資格です。一般的な運用会社の投資ポートフォリオでは、投資総額の80%を非上場企業への直接投資とすることが求められています。RIAはVCに高い投資自由度を提供し、セカンダリー取引やクリプトなどのオルタナティブ投資を可能とします。詳細はBUILTWORLDS "Why Leading VCs are Becoming Registered Investment Advisors"参照。
※6:PR TIMES「ケップル、スタートアップ株式のセカンダリー取引特化型ファンドを設立」2022年6月23日
グロースエクイティ
グロースエクイティとは、既に一定の事業基盤を確立した企業が次なる成長ステージに進むために必要な資本を提供するファンドの総称です(※7)。投資手法はファンドにより異なるものの、プライマリー取引を中心に、ミックスディールやダイレクトセカンダリー、バイアウトなどを取り扱います。
グロースエクイティの担い手として、大きくPEファンドを母体とするものと、上場株ファンドを母体とするものに大別されます。PEファンドを母体とするグロースエクイティの例として、2025年4月にレイター期のスタートアップに投資するファンドの設立を発表したインテグラルが挙げられます(※8)。また、上場株ファンドを母体とするグロースエクイティの例として、香港を拠点としLayerXやニーリーなどへの出資実績を有するKeyrock Capital Managementが挙げられます。
※7:グロースエクイティの詳細はMinerva Growth Partners「グロース・エクイティとはなにか」参照。
※8:日本経済新聞「インテグラル、新興投資に参入 150億円拠出」2025年4月3日
証券会社・プラットフォーマー
これまで解説した各プレイヤーがセカンダリー取引の売り手または買い手として関与するのに対し、証券会社やいわゆるプラットフォーマーは売り手と買い手を仲介(マッチング)する役割を果たします。
グローバルでは数々のプラットフォーマーが存在し、代表的なものとしてNasdaq Private Market、Forge Global、EquityZen、Zanbato等が挙げられます。特にNasdaq Private Marketは2022年にGoldman Sachsなどからの資金調達を実施し(※9)、Nasdaqからスピンアウトして上場を目指すなど、急激に成長を遂げています。
日本においては長らく未上場株式のセカンダリー取引を担う証券会社やプラットフォーマーは存在しませんでしたが、中編で解説した未上場有価証券特例仲介業やPTS制度の見直しにより、今後の参入が見込まれます。
※9:Nasdaq "NASDAQ, SVB, CITI, GOLDMAN SACHS, AND MORGAN STANLEY LAUNCH NEW PLATFORM FOR TRADING PRIVATE COMPANY STOCK", July 20, 2021,
まとめ
本稿では、未上場株式セカンダリーマーケットの主な担い手について解説しました。日本でも未上場株式の売り・買いいずれのニーズも高まり、仲介者の参入も始まるなど、セカンダリーマーケット拡大の環境が整いつつあります。
今後の連載では、各プレイヤーの役割やニーズについてさらに詳しく掘り下げていく予定です。次回は「スタートアップから見たセカンダリーマーケット」として、スタートアップとその関係者である創業者や役職員の役割とニーズ、課題について解説する予定です。
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