
2024-11-18
インタビュー
愛知、岐阜、静岡、奈良ーー各地に根差した金融機関だからこそ見える、地域発スタートアップの現状
地域金融機関が語る、スタートアップ支援の最前線(前編)
Startup Next編集部がお届けする、今をときめく!投資家インタビュー。志を持って活動される投資家のみなさんのバックグラウンドや考え方に、一歩踏み込んでご紹介しています。
今回は特別編!愛知、岐阜、静岡、奈良で地域経済の活性化をミッションとする、地域金融機関系のベンチャーキャピタル(以下、VC)担当者にお越しいただき、各地域のスタートアップの現状と展望について語っていただきました。
※登壇者プロフィールや記事の内容は2024年9月時点のものです。
参加者プロフィール
■川埜 浩之氏(NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社/インベストメント部リーダー)
2004年4月十六銀行入行。営業部店勤務(7店舗)、融資業務、法人営業、住宅・アパートローンアドバイザー、新規法人先開拓専担、本部業務(ビジネスマッチング・デリバティブ・私募債・オペレーティングリース他)、NOBUBNAGA21(スタートアップ支援))の業務を経験。現在は東京を活動拠点とし、全国のスタートアップを対象とするCVCの活動として、十六フィナンシャルグループと事業共創し新たな未来を創造できるスタートアップに投資を行う。最後の晩餐に食べたいのは故郷札幌の味噌ラーメン。
■山内 栄二氏(静岡キャピタル株式会社/営業部シニアディレクター)
2015年駒澤大学卒業後、三井住友銀行へ入行。富裕層向けリテール営業から債権管理業務まで銀行業務を幅広く経験。その後静岡銀行へ転職。三菱UFJキャピタルへの出向を経て2021年10月より静岡キャピタルにてベンチャー企業への投資及び社内の組織改革に取り組む。最後の晩餐に食べたいのは卵を落としたチキンラーメン。
■副島 直和氏(南都キャピタルパートナーズ株式会社/キャピタリスト)
2004年南都銀行入行。県内外の営業店にて個人・法人営業に従事。
2010年より取引先の海外進出や輸出入の支援業務に従事。タイ・バンコクへ2度駐在し海外進出後の現地経営支援に従事。2018年より投資業務に従事。南都キャピタルパートナーズ設立後に出向し、投資先のサービスを取引先、自治体、銀行に繋ぐことで投資先の企業価値向上に努めるとともに地域への新しい価値の創出に貢献。奈良検定1級。最後の晩餐に食べたいのはお酒と鮪、奥様の手料理。
自己紹介
ーーみなさま、本日はお集まりいただきありがとうございました。まずは自己紹介と所属組織の紹介をお願いします。
川埜 浩之氏(以下、川埜):NOBUNAGAキャピタルの川埜です。2004年に十六銀行に入行し、営業部店業務を7店舗程経験した後、本部で主に法人向けソリューションの企画やサービス開発、営業部店の支援業務に3年半弱携わりました。
そのなかで、NOBUNAGA21という、株式会社十六銀行、野村證券株式会社、有限責任監査法人トーマツの3社が立ち上げたベンチャーの支援組織を通じてスタートアップ支援にも携わっていました。その後、2021年に設立されたNOBUNAGAキャピタルビレッジに加わり、現職に至ります。
NOBUNAGAキャピタルには2つのファンドがあります。1つは十六フィナンシャルグループとの事業共創を前提とした全国のスタートアップを対象とするCVCです。もう1つは十六フィナンシャルグループの主な営業活動拠点である愛知、岐阜、三重に本社を置くスタートアップに特化した純投資ファンドです。
山内 栄二氏(以下、山内):静岡キャピタルの山内です。2015年に三井住友銀行に入行し、リテール営業や与信管理などを経験しました。子育てをきっかけに妻の故郷である静岡に移住し、静岡銀行に転職。営業店や三菱UFJキャピタルへの出向を経験して、現職について3年ほどです。
静岡キャピタル営業部(ベンチャーキャピタル部門)は投資担当4名が在籍し、基幹ファンド一本で運営しており、静岡銀行の営業基盤である静岡、愛知、神奈川、東京、大阪に拠点を構えるスタートアップを対象に投資しています。
オールジャンルに投資を行っていますが、シード投資や創薬関係の案件はまだ少なく、私自身はディープテックやBtoCを中心に投資検討を行っています。
副島 直和氏(以下、副島):南都キャピタルの副島です。2004年に南都銀行に入行し、県内の営業を4年経験した後、海外関連部門に20年ほど在籍し、海外駐在も経験しました。現在の投資業務は6年半ほどになります。
南都キャピタルパートナーズのベンチャーファンドは、30億円規模のCVCファンドと10億円規模のインパクトファンドです。オールジャンルで地域の住民・企業・南都銀行の資するスタートアップ約80社に投資をしています。
ーー豪華なメンバーに来ていただけて嬉しいです。改めて、どうぞよろしくお願いいたします。

(写真:左から NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社 川埜 浩之氏、静岡キャピタル株式会社 山内 栄二氏、南都キャピタルパートナーズ株式会社 副島 直和氏)
愛知、岐阜、静岡、奈良ーー各地に根差した金融機関だからこそ見える、地域発スタートアップの現状
ーースタートアップの数という観点から、現状についてお聞かせください。
副島:奈良はスタートアップの増加率、全国一位なんです。というのも母数がすごく少ないので、1が2に増えるだけでも率で見ると200%と増えてるように見えるという具合です(笑)。
率はさておき、体感としても増えている印象はあります。背景には大学発ベンチャーの影響もあると思っていて、奈良先端科学技術大学院大学という、IPS細胞で有名な山中教授もいらっしゃった先端技術系の大学があるんですね。
大学も予算や学生を確保して生き残っていかなければいけないので、関連部署を設置し、学生起業を応援する動きが出てきています。
川埜:大学の影響はありますね。岐阜大学は4年半前に起業部ができ、部員は私が銀行本部にいて関わらせていただいていた当初の数人から最近では30人程に増えたと聞いています。他にも名古屋大学や名古屋工業大学、岐阜薬科大学なども起業支援に力を入れ始めており、ディープテックや創薬分野の発展も今後期待できそうです。
副島:愛知県は行政も積極的に動いていますよね。
川埜:行政、特に愛知県と名古屋市が力を入れたことも数が増えている要因の一つだと思います。3年半前にNOBUNAGAキャピタルを立ち上げた当初は、数か月も足を運べば愛知・岐阜のスタートアップの多くを把握できるほどの数でした。2024年10月開設のSTATION Ai に向けて、愛知県がPRE-STATION Aiを当初開設したことや、名古屋市もナゴヤイノベーターズガレージを早い段階から開所するなど、エコシステムの整備が急速に進み、起業家も増加しました。それと同時に、エコシステム構築のために多くの支援者や支援団体が増え、東海エリアでの支援体制が整ったことで起業する人が増え、今では新しい企業も増えていて、イベントも毎週どこかで開催されているなど、かなり盛り上がっています。
さらに、公立の小中学生に対しても、アントレプレナー教育を実施するなど、「起業家を育てて発掘していこう」、「マインドから変えていこう」という意識がかなり強くなっていると感じます。
山内:静岡でも2019年頃から浜松市長がスタートアップ支援の政策を打ち出したことで、特に浜松の動きが活発化しました。現在は当時の浜松市長が静岡県知事に就任したことから、県全体への波及効果が期待されています。実際に県内各地でインキュベーション施設や支援団体が立ち上がっており、エコシステム全体が活性化しつつあります。やはり行政の影響は大きいですね。
ただ、数年前からスタートアップの企業数は増加傾向にありますが、今は「多産多死」段階には至っておらず、まだまだ成長しきれていない企業が多い状況にあります。
ーー愛知は頭ひとつ抜けてエコシステムの形成が進んでいるようですよね。行政に加えて、地域特有の背景みたいなものはあるのでしょうか。
川埜:愛知は元々トヨタをはじめとした製造業が多く、ものづくりが盛んな地域であり、経済圏としても大きいため、製造業関連のスタートアップは多いです。
岐阜においても、名古屋まで電車で20〜30分で行き来できる距離のため、愛知の良い影響も受け、新たなコワーキングスペースができたり、起業家支援に携わる支援組織や団体が増えており、今後さらに発展する可能性を感じています。
山内:静岡は地域によって産業に特色があり、産業が強く、西部地区は製造業、中部地区はサービス業、東部地区は観光業が盛んです。また、雇用も豊富で生活水準も高いため、起業のモチベーションが生まれにくい面はあると感じています。こうしたことから、起業する方は県内の大企業を経てスピンアウトする40〜50代が多く、若い人は少ない傾向にあります。
副島:奈良は他県と比較して県内に大企業が少ないです。この背景は、多くの人が近隣の大都市圏である大阪・京都に近く通勤が便利なためです。結果、県外就業率が高く、平均通勤時間も長くなっています。そういった現状から、通勤時間を減らし、子供と向き合う時間を捻出したいと起業するケースも見られます。

(写真:南都キャピタルパートナーズ株式会社 副島 直和氏)
投資環境の壁に挑む。地域における投資家不足とCVC・外部VCとの協業可能性
副島:地域発のスタートアップを支援していると、地域に投資家が少ない点が大きな壁だと感じることが多く、皆さんにもお話を伺いたいです。
山内:確かに投資家も投資額も少ないですね。加えて、地元の起業だから地元の投資家に支援してほしいという空気感はありますね。
副島:奈良のスタートアップなので南都銀行さんに、と指名で支援をお願いされることもあります。
山内:LPからお金を預かっているGPとしては、妥協した出資はできません。地元のスタートアップに対しても首都圏と同等にDD(編注:デューデリジェンス)をしています。
副島:資金調達を主導するリード投資家となるとさらに少なくなります。地域金融機関系のVCはどこも比較的一人当たりの担当企業数が多いこともあって、リード投資家としてリソースを割くことが難しいというジレンマもあります。
山内:もちろん個人差もありますが、弊社では各担当者が約30社の企業を担当しています。
ーー地元の企業にCVCとしてスタートアップ側の投資を担ってもらうというアプローチは難しいのでしょうか。
山内:CVCとして活動している企業もありますが、主に海外のスタートアップやミドルステージ以降の投資が中心です。グローバル展開している企業にとっては、地域の小さなビジネスでは協業が難しく、投資先になりにくいんですよね。
副島:奈良は大企業が少ないので、地元の企業にCVCとしてスタートアップ側の投資を担ってもらうというアプローチは難しいです。
ただ、その中でもアンテナを高くして、スタートアップとの出資や共創への興味は高まってきていると感じています。
特に30〜40代の次期経営者層が、新しい事業の核を見つける必要性を感じ、スタートアップに注目し始めています。この層が今後の投資家層として期待できると考えています。
川埜:愛知にもCVCはありますが、数としては首都圏と比較して多くないので、外部のVCやCVCと連携して投資するケースも増えてきています。ここ数年はエコシステムの発展により、首都圏のVCからの関心も高まり、投資家として入りやすくなっているのではないかと感じています。

(写真:NOBUNAGAキャピタルビレッジ株式会社 川埜 浩之氏)
東京と地域の格差は情報と人材の不足。地域の強みを活かした、格差解消に向けた取り組みとは
ーー仮説としてよく都心との情報格差が課題の一つに挙げられますが、実際のところはいかがでしょうか。
川埜:愛知では情報格差はほぼ解消されているという話をよく聞きます。実際、地域内で支援者同士が連携し、地域で育てるという意識が強いです。実際、数では東京には勝てないからこそ、一社ずつにリソースを割いてフォローすることこそが地域支援のあり方に求められるものであり、私たち支援者が強みを活かすポイントだと感じています。
山内:情報もそうですが人材の格差も影響があると思います。地域発のスタートアップは人材を集めにくい分、投資家の評価において、事業成長の面がマイナスに見積もられることがあると感じています。
川埜:そもそも当たり前の話にはなってしまいますが、母数の違いは大きいですね。東京の人口が約1,400万人なのに対し、愛知が約750万人、岐阜は約200万人。規模が違うと、ピッチコンテストなどのイベント数も含めて差が出てきます。
山内:情報格差に関してはメンターやアドバイザーなどの支援者は揃っているものの、資金調達のノウハウが圧倒的に不足しています。
例えば、東京でMRR1,000万円のSaaS企業の場合、バリュエーションはこのようになり、ピッチデッキをこう作成し、特定の投資家に対してこの程度のアプローチを行うことで資金調達が成功しました。このような具体的な情報は、起業家のコミュニティ内で当たり前に共有されています。ですが、静岡ではそうしたコミュニティが現状ありません。
ーー改善の動きなどはあるのでしょうか。
山内:静岡キャピタルも、特に不足しているシード領域への投資を強化し、社内でのナレッジ蓄積を進めていますが、一朝一夕にはいきません。県内の起業家の皆さんには積極的に多くのVCに相談に行き、フィードバックをもらうことをお勧めしています。また必要に応じて首都圏のVCも紹介しています。
ただ、実際に出資につながったケースは少ないのが現状です。投資家からのフィードバックを愚直に実行し成果を創出するまで伴走する必要があると感じています。
しずおかフィナンシャルグループ全体では、ベンチャーデットや静岡県内企業とスタートアップ企業をつなぐ商談会「テックビート静岡」の開催を通じて、スタートアップビジネスへの取り組みを強化し、地域企業とのオープンイノベーションも進展しています。今後もグループ一丸となって、地域の課題解決に取り組んでいます。
一方で、人材やエクイティマネーが豊富な首都圏と同じ戦い方はできませんし、同じ方法では勝ち目はありません。地域の特性を生かしてどのような戦略を取るべきかは、ぜひ様々な方々と意見を交わしていきたいと考えています。
副島:お二人に言われ尽くしてしまったのですが(笑)、スモールビジネスとスタートアップの違い、VCの考え方を理解しているかどうかという点でも差を感じます。
起業されている方、何度もピボットして事業が出来上がってスタートアップのような新しいビジネスをやっている方は結構いらっしゃるのですが、VC目線を考慮せずにバリュエーションを高めに設定してしまうなどギャップが生じることがあります。
山内:従来型のビジネスからスタートアップのような発想に切り替えるのは、まさにアンラーニングに近い取り組みですね。出資を受けてまで事業を拡大することに対する抵抗感を持つ方も少なくありません。
川埜:設備投資などは別として、赤字を掘って成長していく姿勢はスタートアップにしかないですし、そこの発想がないと難しいですよね。
副島:人材不足の観点では、資金調達のナレッジを持つCFOやCOOといったハイレイヤーの不足が特に大きな課題です。
これに対して、我々では、奈良出身のVC・CVCの方を中心にコミュニティを立ち上げ、地域貢献に意欲的な投資家と起業家を繋ぐ機会を設けています。投資機会というより、気軽な壁打ちや相談相手を作るためのものです。
ーーナレッジの格差については、愛知とそれ以外で明確に違いがありますね。愛知が格差を解消できた理由はなんだったのでしょうか。
川埜:3年前の段階でもスタートアップはイメージですが200~300社程度あり、他地域との比較では多い方だったと思います。そこに、先ほどの多くの支援者によるエコシステムが形成されはじめ、十六フィナンシャルグループとしても、20年以上前から「NOBUNAGA21」によるスタートアップ支援(ビジネスコンテストを毎年開催など)を行っており、各支援側の継続した取り組みの効果も出ているのではと考えています。それにより、直近3年では、スタートアップ側の急増にとどまらず、投資家側プレイヤーも増えてきたと思っています。
副島:物理的に支援者や投資家との距離が近いのは大事かもしれません。
愛知県にVCが集まるようになった理由は何だと思いますか?投資対象が少ないとそもそも来てくれないと思うのですが、スタートアップがもともと多かったのでしょうか。
川埜:3年前の段階でもスタートアップは300社程度あり、もともと多い方だったと思います。20年ほど前からスタートアップ向けのビジネスコンテストを毎年開催しているので、支援側の継続した取り組みの効果も出ているのではと考えています。
直近3年では、行政がトップダウンで動いたこともあって、スタートアップ側の急増にとどまらず、投資家側プレイヤーも増えてきました。
本インタビューの後編は11月25日に公開を予定しております。
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今回の座談会にご参加いただいた静岡キャピタル様、南都キャピタル様をはじめ、多くのVC・CVCの皆様に活用いただいております。
===参考記事===
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