
2024-12-03
【弁護士が解説!】押さえておきたいスタートアップの取締役会の重要ポイント(セミナーレポート 前編)
会社の業務執行についての決定を行う「取締役会」。
開催が必要なことは知りつつも、具体的な開催のタイミングや、議事録の作成方法など不明点も多いのではないでしょうか。
今回は、2024年9月6日に弁護士の五十嵐先生をお招きして開催したセミナー「取締役会の重要ポイント」から、取締役会開催における注意点や、具体的なポイントを、前後編に分けてお届けします。
前編にあたる本記事では、取締役会に不慣れな会社がつまづきやすいポイントのうち「取締役会の開催を忘れる」ことに焦点を当て、取締役会を開催すべきタイミングに気がつけるよう、その解決策を紹介します。
以下に当てはまる方には、特におすすめの内容となっておりますので、ぜひご覧ください。
・取締役会関連の事務に携わっている方
・取締役会で何を決議するべきか悩んでいる方
・取締役会の開催を忘れた経験がある方
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※後半の記事はこちらです。合わせてお役立てください。
五十嵐 将志さんプロフィール
弁護士。弁護士法人アインザッツ( https://einsatz.law/ )代表。中央省庁法務エキスパート兼務。1986年生。慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻、早稲田大学大学院法務研究科卒業。
都内のスタートアップ法務を専門とするブティック系法律事務所での勤務を皮切りに、独立開業後も一貫してスタートアップ法務に取り組む。2021年には地方発のベンチャーキャピタル設立に携わり、法務・行政手続の全てを担当した。2022年からはスタートアップにメンバーとしても参画。
スタートアップの資金調達やベンチャーキャピタルの組成・運営に明るい。
注意事項
・本コラムは法的助言を目的とするものではありません。個別の案件については、専門家に各々固有・格別の事情・状況に応じた適切な助言を求めてください。
・本コラムは日本における一般的なスタートアップの実務を想定して記載しています。ここでいうスタートアップとは上場前の、非公開企業でイノベーションにより急成長を目指す社歴の浅い株式会社を想定しています。
・会社法の規定の一部は、各会社の定款で会社法の内容とは異なる内容を定めることを許容しています。株主総会を実施する時は、必ず自社の定款をご参照ください。
・本コラムは2024年9月時点の法令に基づいて作成されています。取締役会に不慣れな会社がつまづく「取締役会の開催忘れ」
取締役会で最も多いミスは、取締役会の開催自体を忘れてしまうことです。これは、開催すべきタイミングや、開催すべき議題に気がつけないことが主な要因となります。
一方「株主総会」については、「取締役会」と比較すると忘れられることが少なくなります。これはなぜでしょうか?
株主総会とは、会社の最高意思決定機関です。その議題は株式発行についてや決算についてなど、会社の経営に影響を与える重要事項であることに加えて、そこに外部の専門家が多く関わっていることが多いため、開催を忘れるということが比較的少なくなっています。
※株主総会の開催すべきタイミングや運用の実務に関しては、スマートラウンドの「株主総会マニュアル」や以前に書いた記事「【弁護士が解説】スタートアップの株主総会の実務とスケジュール smartround活用法も紹介」をご参照ください。
対して、取締役会は会社の業務執行についての決定を行う機関です。議題も通常業務の範囲にとどまることが多く、社内で完結するものがほとんどです。
そのため、外部の専門家や株主から観察されることが少なく、開催を忘れていても指摘されることもそうありません。これが、取締役会の開催を忘れてしまう主な理由です。
新たな資金調達やIPOに向けて社内のドキュメントを整理している時に発覚し、その時にはすでに後戻りできなくなっているというケースが多いです。
以上のような違いを踏まえ、取締役会を開催しなければいけないタイミングに自分たちで気づけるような仕組みを作ることが大切になってきます。
取締役会の開催タイミングをキャッチするには
では、取締役会の開催タイミングについてはいつ、誰が気づくべきなのでしょうか。
その前に、この取締役会のセミナーにご参加の皆様の役割を見てみましょう。
参加者アンケート①セミナー参加者の役割

バックオフィスご担当の方が38%と最も多いですね。
次に、普段取締役会関連の事務を担当しているのは誰かを見ていきましょう。
参加者アンケート②取締役会関連の事務は主に誰の仕事ですか?

こちらもバックオフィスの方が最も多く、45%を占めています。
私が普段取締役会についてやり取りさせていただくのも、代表取締役かバックオフィス担当者が多い印象です。
ただ、バックオフィス担当者だけでは、取締役会開催タイミングについてのアンテナの範囲が限定されてしまいます。しかも、立場上、開催にあたっての意思決定もできません。
そのため、実際に対応できる代表取締役と取締役が開催の判断をし、事務に関してはバックオフィス担当者へ引き継げるような体制を構築しておくことが大切です。
取締役会制度の趣旨
「取締役会」が必要なタイミングに気が付きやすくするためには、そもそもの取締役会の目的について理解することが重要です。
取締役会の最も重要な目的は、会社の成長に適切にアクセルとブレーキを設定することです。
①意思決定の迅速化(アクセル)
株主が増えてくると、株主総会の開催自体が煩雑になっていきます。特に株主は、株主が増えてくるほど経営に関与するような株式の割合を持たなくなりますし、そもそも経営に関与しようと思って株式を持っていることも少ないです。
それまで株主総会で決めていたことを、取締役会で決議して意思決定をよりスピーディーにしようというのが、取締役会設置のそもそもの出発点です。
②取締役の監督強化(ブレーキ)
上記でお伝えしたように、取締役会を設置すると、意思決定の迅速化のために取締役に重要事項に関する決議の権限が与えられることとなります。そうしますと、権限を与えられたことで取締役が暴走する危険も新たに生じるという副作用が発生します。
そこで、取締役会には取締役同士で相互に監視させ、取締役が暴走する危険を防ぐ役割も与えられています。
取締役会の決議事項
取締役会の決議事項は、以下の3パターンに分けられます。
①これまで取締役が決めていた決議事項
②これまでは株主総会で決めていた決議事項(アクセル)
③取締役の暴走を止めるための決議事項(ブレーキ)
このうち「①これまで取締役が決めていた決議事項」は、今までと変わらないので開催を忘れることはほぼないと言えます。
「②これまでは株主総会で決めていた決議事項」は、重要な決議事項のため、仮に取締役会の開催を忘れたとしても、株主総会の開催の前段階、あるいは外部の専門家に相談することから、開催が漏れる前に気がつけるパターンがほとんどです。
注意すべきは「③取締役の暴走を止めるための決議事項(ブレーキ)」です。
取締役会だけに存在する決議事項という新しい要素であると同時に、社内で完結してしまうため、どこからも指摘が入らず、誰も気付けない可能性が高くなっています。
つまり「③取締役の暴走を止めるための決議事項(ブレーキ)」さえきちんと意識しておけば、取締役会の開催を忘れるリスクが圧倒的に低くなります。

特に忘れがちな3つの決議事項

「③取締役の暴走を止めるための決議事項(ブレーキ)」のうち、特に忘れがちな決議事項3つを見ていきましょう。
①取締役会の業務執行の決定にかかるもの
まず1つは、取締役会の業務執行の決定(会362条4項)に係る事項です(※太字は講師によるもの)。
「一 重要な財産の処分及び譲受け」
例えば本社ビルを売却・購入するなどが該当します。
「二 多額の借財」
銀行からの借り入れを行うなどが該当します。
「三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」
役員ではないが、それと同じくらい重要な使用人の選任や解任を行うなどが該当します。
「四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」
本社以外に重要な組織を作ったり廃止するなどが該当します。
総じて「大事そうな物、金、人、組織に関して何かするときは取締役会を開く」と覚えておいたら良いでしょう。
しかし、「重要な」「多額の」とはどのくらいなのか?と曖昧な部分が気になるのではないでしょうか。この部分は、専門家であれば判例などから判断するところです。
もっとも、取締役会決議を経ることは株主総会決議を経ることと比べそれほど労力のかかるものではありませんので、開催すべきか不安に感じるようであれば念の為に取締役会決議を経ておくことをお勧めします。
取締役会は取締役が責任を果たしたことを明らかにするための会でもありますから、後々株主から責任追及されないためにも開催しておくことが大切です。
②取締役の権限に基づいた定期報告

2つめは、取締役設置会社の取締役の権限(会363条2項)に係る事項です。
基本的に、取締役会では各取締役が自己の職務における状況を報告していると思いますが、この決議事項が必須で行うべき事項であると認識されていないことが多いために、議事録に残っておらず、報告義務が果たされていないとみなされている問題が多発しています。
また、ブレーキのためにも代表取締役の職務執行状況を報告してもらうことも大切です。
③取締役規則に基づくもの

3つめは、取締役会規則に係る事項です。
「取締役会規則」は、上場準備の一環で作られることが多いのですが、定型文が記載された雛形があるので、これに則って取り急ぎ作成し、誰も中身を読んでないということがあると、かなりの確率で見落とされてしまいます。
取締役会規則を作成しているスタートアップは、一度目を通しておいてください。
まとめ
ここまでで、取締役会の開催を忘れないためには以下の3つを把握することが重要であるとお伝えしました。
「取締役会の趣旨を理解すること」
「取締役会の決議事項を知ること」
「取締役会のみに存在する決議事項を理解すること」
その上で、開催すべき事項かの判断に迷ったら、全ての場合に取締役会を開催する、あるいは専門家に相談することが大切です。
取締役会をいつ開催すべきかを理解したところで、次週公開予定の後編では、もう一つのつまずきがちなポイント「議事録の作成方法」について解説していきます。ぜひご覧ください。
五十嵐先生、ありがとうございました!
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