「技術サイドと経営サイドが議論することが、グローバルで戦えるプロダクトを生むきっかけになる」BuySell Technologies 今村さん×ユーザベース 稲垣さん×Sansan 西場さん 注目企業のCTOによるCxOカンファレンスセッションレポート

2024-05-08

  • イベントレポート

技術サイドと経営サイドが議論することが、グローバルで戦えるプロダクトを生むきっかけになる / BuySell Technologies今村さん×ユーザベース稲垣さん×Sansan西場さん

注目企業のCTOによるCxOカンファレンスセッションレポート

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話題になったChatGPTなど、次々と世に出る新たな技術。こうした最新テクノロジーは、企業の時価総額にどのような影響を与えるのでしょうか。また、良い影響をもたらすために、技術サイドの責任者であるCTOにはどのような視点を持つことが求められるのでしょうか。

こうしたテーマについて、株式会社BuySell Technologies取締役CTO 今村雅幸さん、株式会社ユーザベース代表取締役Co-CEO/CTO 稲垣裕介さん、Sansan株式会社執行役員/VPoE 西場正浩さんとともにディスカッションを行いました。

本記事では、2023年9月22日(金)に開催された「Startup CxO Conference」のセッション「テクノロジーが時価総額にどう影響を与えるか」の内容をお届けします。当日のモデレーターは、ファインディ株式会社代表取締役 山田 裕一朗さんが務めました。

※役職は2023年9月22日時点のものです。

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技術とIRとの距離の遠さを実感した

――これだけスタートアップに投資が集まり、かつ最初にお金を使うところはエンジニアの採用やエンジニア組織を作ってプロダクト開発を行うところであるにも関わらず、テクノロジーがどれだけ事業価値に繋がっていくのかといったことが語られる機会は少ないです。

そういった機会を増やしていきたい、あるいはIRを含めてテクノロジーと時価総額みたいなところにこだわっている会社の方にお話をしていただきたいなと思い、今回の場を設けました。

私自身は三菱重工、ボストンコンサルティンググループを経て、ファインディという会社の代表を務めています。弊社にはエンジニアが40人ほど在籍していて、エンジニア採用やエンジニア組織の開発生産性可視化サービスを展開しています。では、お三方にも順番に自己紹介をお願いしたいと思います。

稲垣:ユーザベースの稲垣です。私は代表とCTOの2つ肩書を持っていまして、今回はCTO、エンジニア視点で話ができればと思っています。

弊社は高校の同級生の梅田、梅田が転職同期で知り合った新野という3人による会社で、最初は彼ら2人が共同代表として立ち上げたところに、私がCTOとして参画したのが始まりでした。創業時にはそれぞれペインがあり、彼らは企業経営分析部分にペインを感じており、私は前職でも作っていたBtoB分析プラットフォームをもっと技術を駆使すればより良いものができるのではないか、という観点を持っていました。

やはり最初からエンジニアがいたのはユーザベースのカルチャーとして非常に大きく、採用にもそれほど困ったことはありませんし、当時から強いプロダクト作りに一貫してきたという背景があります。

SPEEDAを始めBtoBのプロダクトを複数展開しており、従業員数は1200名、グローバルで4拠点、サービス提供は16カ国でやっている規模感の会社です。

エンジニア組織には技術担当役員、技術的クオリティーを高めるFellowを含め9名のメンバーがいまして、大きく2つの開発チームが存在しています。1つはSaaS製品をまるっと請け負っているSaaSプロダクトチームと呼んでいるもので、アジャイル開発やテストドリブンの開発をメインで行う、かなり仕組み化されたチームです。もう1つはNewsPicksのほうで、こちらは開発体験を重視し、独立的にリモートワーク含め自由に働けるチームです。この2つのチームが強く存在することにより、M&Aが非常にうまくいっているという特徴があります。

いずれの事業にも最初はエンジニアがほぼおらず、INITIALに1人だけ置けている状況でした。AlphaDriveに関しては完全に営業が強いビジネスサイド寄りの組織で、エンジニア文化というものが作れなかったんですね。

そのため、事業として立ち上がっているものの、開発に力を入れられず、プロダクトとしてスケールできない状態が続いていました。そこにおける時価総額の価値もなかなか挙げられなかったんですね。SaaSのほうはMIMIR製品もカバーしますということで、SaaSのプロダクトラインナップに融合を進めているようなチーム編成となっています。

新しい製品がどんどん生まれている状況で、僕らとしてはビジネスが強いチームに対しても、僕らのテクノロジーチームがあれば一緒にプロダクトを作れると言えるので、M&Aの仕組みとして1つそうした強みを持っているのかなと思っています。

技術の感覚を持った経営者、ビジネスメンバーを多くしていくことは非常に重要だと思っています。社会貢献というところでも、プロダクトとビジネスサイドが融合していく世界を何かしら支援したいという思いがあり、プラスエンジニアリングという言葉を使って社内メンバーにプログラミングを学ぶ機会を提供したり、親子プログラミング教室を作ったり、日本CTO協会と一緒に「Startup CTO of the Year」というアワードを展開したりしています。

今村:私は新卒でエンジニアとしてキャリアをスタートさせたあと、3年ほど経ってファッション×ITのようなスタートアップを起業しました。その後、そのスタートアップを売却し、ZOZOのCTOという形でプロダクトオーナー、開発、エンジニア組織作りに携わっています。そこからBuySell Technologiesという現在の会社にきまして、テックカンパニー化を推進しています。そのほか、CTOが集まる協会の理事や弊社の主要株主であるファンドの投資先支援も行っています。

BuySell Technologiesはいわゆる出張訪問買取を行う総合リユース企業です。8期連続増益しており、今期は440億円ほどを見込んでいます。従業員数は1400名ほどと、結構大きな規模の企業になりつつあります。

メイン事業は出張訪問買取で、日本最大級の規模で全国展開を行っています。去年1年間で24万件ほど訪問しました。また、店舗ももっておりまして、子会社合わせて全国200店舗以上展開しています。

入社後に私がやっているのは、テックカンパニー化の推進です。買い取りから販売までオペレーションを一気通貫に業務効率化できるようなリユースプラットフォームの開発や、全社共通データ基盤の開発なんかを行っています。あとはデータやAIを活用した査定システムにも投資していますし、最近では研究開発を強化してもいます。

組織面においては、入社時にエンジニア数が30名ほどだったところが現在3倍ほどの100名規模にまで増えてきており、新卒エンジニア採用も毎年10名以上採用できているという形です。エンジニアの世界ではまだまだ弊社の認知度が高くないため、テクノロジーに関する情報発信も強化しています。

その他、評価制度や給与テーブル、福利厚生の刷新、開発生産性の向上というところで、採用した人たちをちゃんとワークさせるため、より生産性の高い開発組織を目指していろいろ取り組んでいます。その成果が認められ、昨年「Findy Team+ AWARD 2022」を受賞しました。

西場:Sansanの西場です。私は数学系のエンジニアでして、銀行で働いたのち、医療系IT企業で機械学習エンジニアになり、そこからプロダクトマネジメント、事業責任者、採用人事をやったのち、2021年に弊社に入社、現在VPoPをしています。

弊社は2007年に設立した会社で、よく「名刺管理の会社でしょ?」と言われるのですが、実はそれはもうメインではありません。名刺管理ももちろんできますが、営業DXに活用できる機能が多く含まれていまして、名刺管理はその一環でしかないという状況になっています。

その他、経理DXの「Bill One」、契約DXの「Contract One」など、新しいプロダクトがどんどん立ち上がっています。これらのプロダクトはテクノロジーが中心にあり、テクノロジーがないと実現できないものです。ただ順番は逆で、プロダクトが先でテクノロジーがあとです。

組織は、技術本部と呼ばれるところに500人ほどが所属しています。内部にはいろいろなプロダクトや組織が15~16あり、500人中の1人というより、30~40人中の1人として働いているという形ですね。

会社のフェーズは面白くて、複数プロダクトがあり、メインプロダクトも伸び続けているというチャレンジがたくさんある一方で、安定もしているという感じです。安定と挑戦が混ざっているなかで、手を挙げれば異動もしやすい環境なので、今は新しいことにチャレンジしたいとか、逆に腰を据えて取り組みたいとか、もっとプロダクトに近いところ、もしくはビジネスに近いところで働きたいという自分の希望に合わせた働き方ができる会社かなと思います。

テクノロジーが時価総額にどう影響を与えるか

――では、本日の本題に入っていきたいと思います。「テクノロジーが時価総額にどう影響を与えるか」という本テーマは、これまであまり取り上げられてこなかったものだと思います。我々もスタートアップなので、いろいろな会社のIPO資料を見るんですが、例えばDatadogの資料では最初にプロダクトの思想があり、次にプロダクトの歴史があってという形で、基本プロダクトから入る流れで構成されていて、実は売上や成長が意外とあとにくるんですね。これは数字がいいという前提がありはするんですが。

一方で、日本のSaaSメガベンチャーのIRは、基本的に数字から入っていて、技術やデータの話は全然ないところもあるという感じなんです。なので、将来的にグローバルに出ていく会社が増えてほしいという観点でいうと、テクノロジーも時価総額やIR、未上場時においても投資家に対して説明していくといったところが非常に重要なポイントに今後なっていくんじゃないかと思っています。

では、最初に稲垣さんにお聞きします。株式市場と対峙するなかで、投資家に説明が伝わらないとか、どう説明して結果どうだったかみたいなところをお話いただけますか。

稲垣:弊社は未上場からスタートし、2016年末に上場して今年の頭に非公開化をし、また再上場に向かっているところなので、大きく3つのフェーズに分けられます。最初は何もないときですね。当時、我々は投資家周りはしたんですが、調達はしなかったんですよ。そこから1年後にエンジニアチームを集め、SPEEDAを作り上げて、そこで調達をかけました。そのときで3億円ぐらいでしたね。

この「ちゃんとものができたとき」はそれだけの違いが出るものだというのは明確に感じたところで、スタートラインに立って大きな調達を得るためにはプロダクトが本当に必要だと思いました。

ただ、そのときにある記者に取材に来ていただき、「マーケットにもちゃんと示すから技術の中身を教えてくれ」と言われたので説明したんですが「わかりにくい。パフォーマンスが早いことには触れなくていいですか」と言われたんです。「いや、ダメです。違いますよ」と話したんですが、このやり取りだけでてこずりまして。なので、何が顧客に対する優位性とみているのか、について記事に書けないと言われたのを覚えています。

次は上場のフェーズですね。経済情報の会社なので、やはりビジネス的な話がどんどん先行してしまいます。技術の話を聞かれることなんて、ほぼなく、10件やって1件あるかぐらい。海外の会社だと聞いてくれたりもするんですが、聞かれて答えて終わり、答えに対する深い質問はこない。やはり技術とIRの世界は離れているんだなと思いました。

そこから私たちもグローバルな挑戦をし、時価総額が上がっていって、一度撤退するという意思決定をしました。非常に苦しかったシーンではあるのですが、そのときにどういう形でサービスが再成長していくのかをもう一度考えたんですね。そのためには、テクノロジーチームを作り上げ、「今こういった優位性があり、このなかでさらに新たな展開をします」と伝えたんですが、これが大失敗してまったく伝わらなかった。

特に個人の方からすると、「こいつお金使うんじゃないか」と思われちゃったんですよ。こういう技術投資を走らせて、こんな可能性を見せますというフェーズは、コストとしか思われないんだなと強く思ったんですね。

そこから進捗も含め「ちゃんとこういう風にエンジニアチームが集められていて、採用人数もこれだけ確保できていて、技術も走ってますよ」とお伝えしても「まだ掘ってるんだね」としか見られなかった経験がありました。やっぱり技術的優位性が、いわゆる顧客価値というか、ユーザーに対し添加されていない状態での説明は本当に難しいんだなと思いましたね。

そこから現在、非公開化をして、不特定多数の株主というフェーズから1人の株主と対話をし、彼らと共に価値を作ろうというところではあるんですが、今すごく感じているのは、複数事業体あるという価値をどう1つのエクイティストーリーに練り上げるのか。これをいま喧々諤々と話しています。そのときに言われるのは、うちは大きくSaaS事業とメディア事業、コンサル事業があるんですが、この3つでどれも高バリエーションと言われている領域のもので、跳ねれば跳ねるんですが、ただ3つの価値がわからない。

感覚として、株主はシンプルな課題を好むんですね。なので、複数ポートフォリオを企業内で組むことは、余計なことをしていると見られてしまう。そもそも、彼らが複数ポートフォリオを欲していれば複数のポートフォリオを見に行くはずだと言っているんですね。シンプルな方が好まれるから、その価値の言語化って何ですかって話になったんです。

それはまっとうな指摘です。ただ、私たちの説明で響いたポイントは1つで、やはりシナジーなんですね。そのシナジーは何かというと、プロダクトの融合なんですよ。プロダクトとして優位性を持って、これが融合していて、3つ事業があったとしてもプロダクトに繋がっているという説明はめちゃくちゃ効くんです。

――なるほど。

稲垣:でも、そこまで至っていないと3つあることは無駄だと思われてしまう、事業の多角化が否定されるんだなというのをすごく感覚として覚えたんです。企業規模が大きくなると、複数プロダクトだったり新領域にいくことは常にあると思うんですが、それを繋ぐシナジーの最も強いものはプロダクト価値の融合だなと思ったので、これがテクノロジーがもっとも時価総額に影響を与えるものだと思いました。

ただ、これも絵に描いた餅だとどうしようもないので、何とか再上場までに間に合わせたいなと思ってやっているところです。

――そのプロダクトシナリオを作り切るという観点だと、ぶっちゃけ未上場化した方がやりやすいんですか。

稲垣:正直ありますね。というのは、途中のプロセスを説明しなくていいので。

――そうですよね。

稲垣:やはり今のフェーズは、もし上場していたとすると、また掘ってるんじゃないかと思われるんじゃないかなと。

――コンパウンドスタートアップのような話も出てきていますが、今のお話のポイントとして、やはり複数プロダクトでシナジーを持たせられるかどうかはプロダクトによってくるということ、そこまで説明できると時価総額にプラスになるんじゃないかという仮説が1つできたのかなと思います。

技術がプロダクトシナジーを作り、新たなプロダクト誕生に繋がる

――次に西場さんに聞きたいのですが、SansanさんはIRでずっとデータベースの話を書いていると感じていまして、まさにシナジーの話に近いのかなと思っているんですね。営業DXプロダクトの刷新で営業を強くするデータベースが軸にありますよみたいなところと、収集したものをマスターデータによってリッチ化していくみたいなところで、これも割とシナジーの話かなと思いながら拝見していました。このあたりはやはり力を入れられているといいますか、社内の経営会議内でも議論がなされているんですかね。

西場:そうですね。シナジーがあるかどうかは私たちにとって当たり前すぎて、外部に対してどう説明するかという議論になるかな、と思います。私たちはデータでいろいろな判断をしていまして、ChatGPTはすごいなと。最初は「まあまあ」くらいに思っていたのですが、3月ごろにリリースされたバージョンがすごくて「これ、大丈夫なんだっけ」となるわけですよ。

私たちがやっていることの優位性ってどうなるんだっけ、といったことが社内でも話題になりました。ChatGPTに投げたらデータ化は全部できるのではないかと。そうしたときに、判断や活用側になるのも当然そうですが、そこで判断したのは、データの加工技術との組み合わせは完全にうちに優位性があるよねということでした。それで、「言われてみればそうか」となりました。

どういうことかというと、大前提として私たちがお預かりしているデータは機密情報であり、絶対オープンにしません。企業の人が誰と会っているかなんて絶対に開示しませんよね。そういうデータが蓄積されているのはやはりすごいと。

その次に、やはりプロダクト投資のシナジーがうちはすごいんですよね。名刺から始まった人脈や営業DXの領域と、Contract Oneという契約書がメインとしてあると。企業活動を考えたとき、大体メールのやり取りをしていますよね、と。それでうまくいくと契約を結びますよね。その後、請求書のやり取りをしますよね、と。そうした外部とのつながりや社内でのコミュニケーションが全部データとしてたまっていく。これらを指し、「シナジーを感じますよね」と言われると、多くの人は「そうだよね、企業活動が全部見えるんだもんね」となります。

小さい会社や外部とのやり取りが少ない会社なら「なんとなくわかるんですけどねー」となりますが、私たちのプロダクトはグループ会社含めて導入されることが多いんですね。普通は、グループ会社がどこと取引をしているかなんて、営業の人にはほぼ見えない。それが全部見えるのはすごいことじゃないかと思うんです。新規営業に行こうと思っていた先がグループ会社の既存顧客でしたとなれば、攻め方が変わりますよね。そういう風に、新しいシナジーを生み出しているところが多々あって、それを作っているのがテクノロジーで、それをつなげているのがプロダクトなんです。

それを私たちはBtoBのSaaSとしてやっているので、ソリューション営業をして、データを載せていかないとプロダクトの意味がないので、きちんとCSがオンボーディングをやっている。プロダクト中心で顧客に価値を届けることをみんなで一丸となってやっている状況です。

――まずテクノロジーを活用しますということが前提になっていて、IRでもそうした説明をしていてデータ活用もそうなっていますが、ちなみにいわゆるマーケットや時価総額に1番対峙しているであろう寺田さんから「こういうことを考えろ」とか言われることはあるんですかね。

西場:いっぱいありますよ。やはりトップラインを上げていかないといけないですし、「こういうことをできないのか」という新しいアイデアや「これができるならビジネスになるぞ」という要求があったりしますね。うちは創業当初からずっとグローバル展開を何度もしているんですよ。インドに行って撤退してといった具合に、何度も何度も。今でもシンガポールやタイに拠点がありますし、グローバルをやり続けています。

やはり研究開発としてはグローバル化に向き合っています。もうそれも「やるぞ」っていうだけ。グローバルのデータ化さえできたらいろいろなことができると思っています。どこをどう攻めるかとは、やはりテクノロジーがないとできません。名刺のデータ化って、皆さん「世の中にこれだけOCR技術があるんだから簡単にできるでしょう」と思うじゃないですか。でも本当に簡単にはできないんですよ。海外でもなかなか難しいですよ。

さっき名刺交換をしたら、名刺サイズが少し小さかったんです。それだけでもデータ化は難しくなる。おしゃれに斜めに書かれている名刺も簡単にはデータ化できないです。そういうところをテクノロジーで解決していて、それが中心にあるから投資していたりディスカッションしたりしていますが、特徴的な指示がくるかというとそうではなく、常にテクノロジーが大事だというなかでやっています。

――ありがとうございます。次は今村さんにお聞きしたいのですが、御社もまさにテクノロジー領域の戦略から社名を変えたんですよね。

今村:そうですね。今のオーナーになるときにBuySell Technologiesになりました。

――元々外注していたのを内製化しながらテック会社になっていくみたいなところで、Technologiesと社名に付けた以上必要となるIRでの説明、投資家とのやり取りを伺いたいです。

今村:そもそも弊社はテクノロジー組織への投資がそんなにない状態でマンパワーでなんとかIPOまでいっているんですよ。当時の時価総額でいくと100から200をうろちょろしている感じで、やはり当時の経営陣も「このままだと会社をより大きくしていくことができない」と。要は、会社を上場させることはできるけれども、やはり小さいままだよねと。

1000億とか1兆とかにしていこうというとき、やはりテクノロジーはもう必要不可欠だよねということで、CTOをちゃんと招聘し、本気で内製組織を作っていこうということで声がかかったという背景があります。

冒頭のところでいくと、テクノロジーが時価総額にどう影響するかというと、個人的には非常に影響すると思っていますし、むしろそれがないと本当に1000億、1兆みたいな大きな会社は目指せないだろうなと思っています。そういう気持ちで弊社にきていますので、僕自身は企業価値を上げていく、その得意分野はテクノロジーで、テクノロジーをどう駆使して強化して向上させていくのかを大前提にテクノロジー戦略を考えています。

我々の場合は出張訪問買取というビジネスをやっていますので、短期的にいくと訪問数と1件当たりいくらの粗利を出せるかという計算式で利益が決まります。ビジネスモデルが訪問数と訪問単価に依存していると考えると、ビジネスKPIにどれだけヒットさせられるかどうかを考えてテクノロジー投資をしなければいけません。というところで、大前提として、既存ビジネスにテクノロジーのレバレッジを掛ければ売上利益が上がるみたいなところを考えています。

それはどちらかというと目の前のことだったり短期中期的なことなんですが、それと同時にCTOが考えなければいけないのは、やはり中長期で企業価値をどう伸ばすかというところです。僕が考えていたのは、リユースプラットフォームみたいなことですね。企業成長はリニアに成長していくものもあれば、非線形の成長を求められることもあるとIRしていると感じるところがあります。その非線形の成長をどう実現するのかの答えが、僕らとしてはM&Aだったんですよ。

特にリユースビジネスの場合は似ているようなビジネスモデルが多く、M&Aのシナジーが非常に高い。ということで、いろいろな販売チャネルを持っているような会社をM&Aしてきたんですが、そのなかでどうやったらPMIを上手く早くできるのか、買った会社をより成長させていけるのかを考えるようになりました。

非常にアナログな会社ばかりで、もう全部紙や手でやっていて、でもちゃんと売上利益を出していますという会社を買って、そこにテクノロジー投資をして売上を何倍も上げるということをやっているので、より上手く早く多くやろうと思うと、当然その中心にそういうことができるシステムを作らなければいけません。

いろいろな買取・販売チャネルに対応できるリユースプラットフォームを作り、M&Aのシナジーをより早められるようにしましょうということを中長期戦略にし、IRに落としたりですとか、投資家に対して「こういう戦略でやっています」という話をしていますね。

――合理化と利益率向上、M&Aがテクノロジーと紐づくみたいなところが面白いなと思ったんですが、今村さんが入りテクノロジーへの投資をしたことで株価は上がったと言えそうでしょうか。

今村:ちょっと上がりましたね。でも、このイベントが決まったころはすごく順調だったのに、その後に落ち着いてしまって、ちょっとこのテーマに気まずさを感じてはいます(笑)。

――テクノロジーに投資をされた後、2年でIRオブザイヤーを取られていて非常に注目されているところで、皆さんなかなか答える難易度が高いかなと思っていました。まとめると、やはり1つはテクノロジーがプロダクトシナジーの根幹にあるということ。あと、そもそもテクノロジーがないと作れないビジネスモデルであるというところで、もう1つはやはり上場後にM&Aをどう活用するのかみたいなところなんですが、そこにテクノロジーを活用していけるか、合理化に繋げられるか。この3つがテクノロジーと時価総額のところで1つ非常に紐づきそうだなということをお話を伺いながら思いました。

上場前に自社の開発スタンス・文化を作り上げておくことが肝要

――次は、上場時も含め、「これをやっていて良かったよ」という話があればお聞きしたいのですが、いかがですか。

今村:自分でやっているスタートアップもそうですし、最近はファンドで支援してIPOした会社が複数あるんですが、それらのテック組織を見ていると、やはり上場するとできるようになることがすごく増えるなと感じています。1番わかりやすいのは採用ですよね。エンジニア採用に急にある程度の応募がくるようになったり、認知度が上がって採用がスムーズにいったりみたいなところがかなりあるかなと思っているので、ちゃんと受けられる体制を作っていくことが非常に大事かなと見ていて思います。

特にスタートアップのエンジニア採用は、人事がいるかいないかのギリギリラインだったり、いてもフローが整理されていなかったりします。急に応募がきたりいい人が入ってきたりしたときに上手くアトラクトできなかったり、仕組みが整っていなくてチャンスを逃してしまったりということが結構起きているなと思うので、もったいないなと。なので、やはり上場して知名度が上がったり、エンジニア界隈に認知してもらえたり採用が上手くいったりというところで、しっかり波に備える体制といいますか、仕組みをちゃんと作っていくのが上場というチャンスを最大限に生かす上で重要だと思います。

――今お話しいただいた組織作り以外の部分で、お二人は何かありますか。

稲垣:少し近い部分になってしまうんですが、僕が知る限り、やはりCEOが最初に困るのはCTOの採用だと思います。僕のところに相談がくるのも、「どうやったらCTOが採用できますか」もしくは「CTOを紹介してください」だと思うんですよね。誰が優秀かもわからないですし、それまで接点がなかったこともほとんどでしょう。そこは本当、もう行動量が成すものかなとは思うんですが。

そこでCTOが採れたときに、そのCTOの能力にもよるとは思うんですが、いわゆる会社としてのスタンスですね。技術的スタンスといいますか、それがないとさっきの今村さんのお話と一緒で、IPOしたあと余力が出てストックオプションの発行がまたできるようになったり、資金的に採用や技術投資ができたりということになり、一気に有象無象がきて入社後に辞められてダメージを食らうというおそれがある。入社後に辞められるのが1番ダメージがあると思うんですよね。会社のスタンスがクリアじゃないと、ただ優秀な人を採用してしまったり、自分たちの思想と合わなかったりする。これは僕らも一定身に覚えがあります。

逆にエンジニアとして思想を持っている人でCTOになれる人はそんなにいるわけでもない。いわゆるテクノロジーとしての文化、どういう人がほしいのか、どういう風にやっていきたいのかという軸がないと、やはりいろいろなことが上手くいきません。上場したときに結果的に少し浮かれてしまったような状況下でいろいろな人が入ってきて大混乱になるという状況は1番避けなければいけないことで、前提部分をしっかり作り上げるのが1番大事なのかなと思います。

――僕もエンジニア組織づくりについてはよく相談を受けるんですが、意外と「数千億円規模の会社でもCTOがいないんだ」ということが普通にあったりするんですよね。確かに、どのような組織にしたいかが決まっている会社の方が合っている人がちゃんと入り、結果離職率も低いんじゃないかと思います。西場さんはこのあたり、いかがですか。

西場:普通に正論みたいな話になってしまいますが、技術は急にできるわけではありません。本当に積み重ねでしかない。素晴らしい技術やすごい研究成果を持っている人が入ってきたら一気に何かが変わるかというと、そんなことはほぼないです。

それでもうちってすごいなと思うのは、弊社はOCRやデータ化周りに関して、おそらく世界最高水準のアジャイルを実践しています。エンジニアだけではなく、データ化を担っているオペレーションセンターのマネジャ―やオペレーション担当者、データ化されたものを受け取ってプロダクトを作っている責任者など、関係者・ステークホルダーが集まって毎週失敗したものをすべてチェックし、方針や優先順位を決めて解決策を考えています。

それがすごいなと。おそらく1日ではできない文化、組織、やり方だと思います。みんながエンジニアバックグラウンドではないなかで、きちんとプロダクトをよくしていこうとかデータ化技術を磨いていこうということに対し、ステークホルダー全員が集まって地道にやり続けているのはすごいことだと思います。そのベースがあるため、上場後に技術投資をするとなっても、彼らが支えられるのだと思いますね。

――僕は代表取締役やファイナンスを含めてやっている目線になりますが、マーケやセールス、ファイナンスは短期的な成果がある。一方、開発側が問題が発生するときは大体障害の発生や情報流出など暗い方に行ってしまう時があり、起きたらみんなが慌てると。僕も前職で情報流出を経験していますが、かなりしんどいですし、そこから2年ほど新しいシステム開発が止まるといったことが往々にしてありました。

やはり、上場前に開発者の環境整備に投資できている会社は上場後もプロダクトが伸びている感覚があります。マーケとセールスだけで無理していったところで、上場後に株価が伸び切っていないという感覚は、やはりいろいろな会社と付き合うなかであるので、開発者環境やセキュリティを含めた投資をどれだけ上場前にやり切るのかが大事なんじゃないかと思います。

CTOとCFOの相互理解、積極的な議論が新たな投資ポイント発見に繋がる

――最後に、CTOが持っておきたい経営目線、経営側にいる代表が持っておくべき技術についてお話いただいて締めたいと思います。今村さん、いかがでしょうか。

今村:そうですね。やはりエンジニアリングは投資だと思うので、いくらの人件費を使っていくらのリターンを得ようとしているのかみたいなところは大前提としてあるのかなと思います。なので、僕らも基本的にどれぐらいのエンジニアリソースをかけてどれぐらいのリターンを見込んでいるのかをすべてのプロダクトで出すようにしています。すべてが定量化できないという前提のもと、短期・中期という軸と定量・定性面の4軸に分け、このプロダクトはどういう成果があるのか、要は投資する価値があるのかどうかをCEOと一緒に議論し、「これはやるべきだよね」と決めています。

だからこそ、CEOもCFOも納得感を得られる。投資家やステークホルダーに対し話す機会は彼らが圧倒的に多いので、しっかり理解してもらう意味でもROI観点は非常に重要かなと思っています。

CTOでよくあるのは、使っているインフラコストやエンジニアの年収などは大雑把に把握しているけれども、結局それを使って何を得ようとしているのか、ビジネスKPIのどこにヒットさせたいのかみたいな観点が抜けがちだと思うんですね。そこも重要な点だと思いますし、短期ではなく中長期目線で考えて、「こういう山に登りたいから、こういう準備をしているんだ」とセットで戦略として考えられる力はCTOが持っておくべきであり、責任を持ってやるべきことだと考えます。

というのも、世の中のテクノロジーの流れはかなり早いんですよね。ChatGPTなんかもこの数ヵ月で出てきたもので、それを採り入れるのか、どう既存ビジネスに活かすのかといったことは、やはりCEOより早くキャッチアップし、どう経営に活かすのか考える責任があるのかなと。

――技術に経営数値を紐づけるところにこだわられているCTOは、日本にはまだそこまでいないのではないかと思い、非常に面白くお話をお聞きしました。西場さん、いかがですか。

西場:私の前職では、1週間インターンをした学生に「どんな会社ですか」と聞かれたら「ROIの会社です」と答えるほど、ROIを口酸っぱく言われる文化のある会社でした。1円使うにもすべて説明しなきゃいけない。私はそんな会社でマネージャーをやっていたんですよ。本当にお金について考えさせられます。「それ、費用対効果いいの?」みたいな話を。

よくあるのが、「費用対効果が10倍いいです。1万円の投資で10万円返ってきます」「やりましょう」という話ですが、これは全然提案でもROIでもないんですよね。前職では「もっと探せば1万円で100万円のものがあるかもしれないよね」と絶対言われます。

ちゃんと探索し、何に投資するのかを決め、その上で効果測定の方法を考え、過去の失敗や成功を次にどう活かすのかを徹底的に考えさせられるんです。その積み重ねかなと思いますね。やはり会社の金銭的リソースをどこにどの程度使い、何を得るのかをちゃんと説明する。それを繰り返すと、社長と話していても大体目線が合うのではないかと思います。

――ありがとうございます。では最後、稲垣さんからもお願いいたします。

稲垣:お二人がおっしゃったことが本当にその通りでしかないなと思いました。それ以外の話をすると、僕が起業した15年前から比べて、どんどん技術は進化していて、開発が楽になっていっているんですよね。これからまたいろいろな製品で出てくるはずだと思います。そのとき、やはり技術者として考えるべきことやCFOとして何に投資すべきか考えるのは会社の優位性なんじゃないかと思っていまして。

例えば、あるグローバルスタートアップが大手クラウドサービスを使っていたのを、プラットフォーム依存モデルになってしまうことを避けるために動画サーバーに特化したものを作って優位性を築いていったみたいな話があります。

全体の効率化やコストを見たとき、短期的には大手クラウドサービスを使った方がいいこともあるでしょうし、自分たちが優位性を持たないものであれば今のツールを活用して生産性を上げていくことは十分あり得ることだと思うんですが、それだと自分たちの優位性を作り切れるのかとか、プラットフォーム依存モデルから脱却できないんじゃないかということは今後どんどん増えていくのではないかなと思います。

そのときの自分たちの踏み込むべきポイントとそうではないポイントをきちんと理解しなければいけないでしょう。なので、エンジニアとしても全体の観点のなかでどこに踏み込むのかを、技術的な面白さだけではなく優位性、ファイナンス観点で考えられるのが大事だと思いますし、CFOも技術理解が必要です。意味がわからないと、目先の効率化でいえば従量課金の方が安いケースはあると思いますので。

エンジニアは控えめな人が多いと思うんですが、彼らに対し「ここは踏むべきだ」と背中を推せる可能性もあると思うので、双方の理解は非常に重要だと思いますね。今、CTOとCFOが分断されているのは日本の会社だと特に多いのではないかと思います。CTOは技術のことがわかればいいし、ファイナンスのことはCFOがわかればいいといったように。

それで、そこまで踏み込んだ議論があまり行われない。もちろん、リスペクトしているから任せているケースもあるとは思いますが、本当はもっと互いが議論すれば投資の余地を見つけられる可能性があるのではないかと思います。

今後、グローバルも含めていろいろなものがコモディティ化していくからこそ、自分たちの優位性を議論し、踏み込むべき時に踏み込むという観点は日本で強いプロダクトを生んでいくために大切なことだと思います。

――ありがとうございます。まとめると、技術で勝負をする観点でいうと、プロダクトのシナジーやコスト面を含めて合理化ができる、あるいは技術で戦えるプロダクトを作っていくことがスタートアップに求められることだと思います。

僕も三菱重工業の出身なんですが、グローバルで技術で勝っている会社は、GEやボーイングのマネをするところから始まり、そこから彼らを超えるような効率的な製品を開発して世界で勝っていったのかなと思います。

ハードウェアの世界で先人たちがそうしたことを作ってきたのだと思っていて、対してソフトウェアの世界はまだまだこれからだと思うんですね。そこで、先ほどお話があったようにビジネスサイドと技術側が議論して投資ポイントを見つけられれば、まだまだグローバルで勝てるところを見つけられるんじゃないかと個人的には思っています。

技術とファイナンス、経営が喧々諤々議論し、グローバルで戦える会社がたくさん出てくるといいなということで、本セッションを締めたいと思います。ありがとうございました。

テクノロジーが及ぼす影響は説明の難しさが存在している

時価総額にテクノロジーが影響を与えるのは明確である以上、テクノロジー面に注力するのはスタートアップにとって重要です。しかし、出資する投資家のテクノロジーの必要性への理解はスタートアップのそれとは乖離しているという現実もあらためてうかがえたセッションだったのではないでしょうか。

最後の話にあったように、技術サイドとビジネスサイドが互いの知見を持って議論することで、新たなチャンスを見出せるでしょう。世界で戦えるプロダクトを世に送り出せる日本のスタートアップの登場が待ち遠しいです。

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