
2026-07-29
【前編】IPOを急がない判断― ブラックロックから調達、SOセカンダリーを組み込んだアスエネ社のシリーズD
2026年7月23日、Climate Tech企業のアスエネ株式会社がシリーズDラウンドの実施を発表しました。世界最大級の資産運用会社ブラックロックのファンドをリード投資家に迎えた総額135億円の大型調達であると同時に、初期投資家の保有株式、および従業員がストックオプション(以下SO)を行使して得た株式のセカンダリー取引も一体的に実施された点で、日本のスタートアップエコシステムにとって画期的な資金調達ラウンドです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2204I0S6A720C2000000/
このラウンドの詳細について、アスエネ株式会社 代表取締役CEOの西和田 浩平さんにお話を伺いました。前編ではシリーズDの狙いと、セカンダリーを積極的に組み込んだ資本政策の考え方を、後編ではSOセカンダリーの実務や今後の展望についてお届けします。
M&Aを軸としたグローバル戦略の布石となるシリーズD
──まずは今回のシリーズDラウンドの全体像から教えてください。
リード投資家はブラックロックがテマセクと合弁で設立した脱炭素ファンド「Decarbonization Partners」です。フォロー投資家として海外エネルギー大手のCVCや既存投資家にも参加いただきました。金額としては、プライマリー(新株発行)が約68億円、セカンダリーが約37億円、これにデットを加えた総額135億円です。これで累計調達額は250億円となります。
──どのような資金使途を想定していますか。
メインはM&Aです。実は我々はすでに単月ベースでキャッシュフローポジティブになっていて手元資金もあるのですが、より大きなM&Aを仕掛けるうえでの資金を想定しています。また、AI投資とマーケティング、そして採用にも使う予定です。
──M&Aのターゲットはどのような領域ですか。
基本戦略は、コア事業のロールアップです。具体的にはCO2排出量の可視化やサプライチェーンのマネージメントプラットフォーム、それからAIを活用したエネルギーマネジメントの領域です。地域としては、市場規模が大きくプレイヤーも多い日本・米国・欧州がメインターゲットです。実は、シリーズDと同タイミングで公開した通り、英国のサプライチェーンプラットフォームを提供するスタートアップSecaro社を最大60億円(将来アーンアウト込み)で買収しました。グローバルなサプライチェーンを有する日本の大企業を顧客とする会社で、我々とのシナジーや補完性が高い戦略的買収です。
https://corp.asuene.com/news/1270/
3〜4年にわたるブラックロックとのリレーション
──今回のポイントはやはりブラックロックかと思います。いつぐらいからコミュニケーションを開始していたのでしょうか。
3〜4年前から接点があり、情報開示をしながら継続的にディスカッションを重ねていました。当時の我々は彼らにとってはまだ小さすぎたのですが、定期的にアップデートを続けるなかで、ようやく彼らが投資できるレンジへと我々が成長してきたタイミングで、今回出資いただきました。良くも悪くも海外投資家は判断が早いのですが、だからこそきちんとアップデートを重ねて長期的にリレーションを築くことが大事だと、改めて感じています。
──交渉期間は大変だったのではないでしょうか。
交渉はなかなかハードで、かなり時間がかかりました。基本合意は1月と早めに合意できていたものの、AIなど外部環境の非常に早くて大きな変化もあり最終的なバリュエーションや条件交渉に時間を要しました。また、セカンダリーも含めていたので関係者が多く、ドキュメンテーションも非常に複雑性が高く時間を要しました。とはいえ、なんとかお互いに妥当だと思える条件で着地できたかと思います。
──やや踏み込んだ質問ですが、正直国内の投資家からの調達も可能だったと思います。なぜ海外機関投資家にこだわったのでしょうか。
2つあります。1つはグローバル戦略です。我々はグローバルでNo.1になることを目指していますし、事業領域であるサプライチェーンは日本だけでは完結しません。海外展開や海外サプライヤーからの信頼という点で、グローバルで誰もが知る機関投資家に入ってもらうのが、今回のラウンドのメインでした。もう1つは上場後を見据えたときに、ブラックロックはクロスオーバー投資家として上場後も保有株式を別のファンドに「横移動」するかたちで継続的に保有いただける点です。また、上場マーケットが企業をどう見ているかを熟知しているブラックロックと、未上場のうちから対話を始められることも大きいですね。正直、ベストなラウンドになったと思います。
IPOを急がないために、セカンダリーを最初から組み込んだ資本政策
──今回のラウンドはセカンダリーが調達金額全体の約4割で、結構大きいように思います。これはどのような背景で決まったのでしょうか。
元々いくらプライマリーで調達したいか?から逆算をして決めました。我々もむやみに希薄化したいわけではなく、直近1〜2年で使う分として、フレッシュマネーはプライマリー70億円+融資30億円で100億円をとろうと最初から予算立てしていました。M&Aは融資やLBO、共同投資も組み合わせることになるので、全ての買収額をプライマリーの増資で取る必要はありません。加えて、前回のシリーズCでも実施した初期投資家などの保有株式のセカンダリー、さらに初の取り組みとして従業員が保有するSOのセカンダリーまで含めて構想していました。
──セカンダリーの内訳につき、初期投資家分と従業員SO分はどのような背景で決まったのでしょうか。
セカンダリーの総額を決めたうえで、まず従業員のSOセカンダリーに充てる金額を決めて、残りを初期投資家のセカンダリーに充てる段取りでした。とはいえ、価格や契約の設計など、関係者が多いため調整はかなり大変でした。
──いわゆるミックスディールを実施されたとのことですが、既存株主の売却需要に応えるためであったり、買い手の平均取得単価を下げるためだったりと、いろいろな文脈がある認識です。今回の主な狙いはなんだったのでしょうか。
新規投資家の投資株価を下げる意図も勿論ありますが、特に大事なのは2つです。まず1つは、上場を見据えたとき、当社はVC比率が高いため上場後に売られてオーバーハングになるリスクがあること。だから、前回のセカンダリーもそうでしたが、上場後も持ち続けてくれる株主への「入れ替え」を進めておきたかった。
もう1つは、事業の急成長を最優先してIPOを急がないという判断。我々はグローバル規模でM&Aも含めて事業を急成長させたい。IPOはこの成長戦略を実現するにあたってタイミングによってはブレーキにもなり得ると考えたので、上場準備も順調だったのですが、あえてIPOを遅らせました。非上場でも資金調達ができて必要な急成長の施策を打てるなら、IPOは時期を遅らせる方が合理的です。そのぶん、ファンド満期などの事情がある株主もいるため、今回セカンダリーを実施しました。
──スマートラウンドのセカンダリー連載の第12弾で「グロース市場改革後は資本政策のあり方が大きく変わる」と書いていましたが、この実践例そのものだと感じました。
これを読んでいた当時は交渉で大変だったのですが(笑)、まさにそうですね。
後編では従業員のSOセカンダリーについて、前提となる報酬設計からSO設計の実態、今後の展望についてお伝えします。
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※本記事は、株式会社スマートラウンドが運営するメディアにおいて、スタートアップエコシステムにおける先進事例としてアスエネ株式会社に取材・掲載したものです。株式会社スマートラウンドおよびその子会社は、本記事で紹介したアスエネ株式会社のセカンダリー取引には一切関与しておりません。
※本稿はあくまでも市場のトレンドについて記述したものであり、個々の銘柄に関する投資のアドバイスや特定の取引を勧誘するものではありません。


