
2026-07-29
【後編】「SOセカンダリーは三方よし」―アスエネ西和田CEOに聞く、SO設計と流動化、そして先輩経営者等からの学び
前編では、ブラックロックの脱炭素ファンドをリード投資家に迎えたアスエネ株式会社のシリーズDと、セカンダリーを組み込んだ資本政策の考え方をお伝えしました。後編では従業員のSOセカンダリーに焦点を当て、前提となる報酬設計からSO設計の実態、今後の展望まで、引き続き西和田さんに伺います。
半期ごとの評価に応じて付与するSO
──まず、前提となる報酬設計の考え方から教えてください。
まず大前提として、現金報酬はしっかり払っていますし、今後も更に昇給させていく方針です。当社の平均年収は26年5月時点で830万円、平均で毎年10%以上の昇給を達成しており、上場企業の平均年収が600万円超となるのでそれよりも高い水準だと思います。成果を出して強く貢献してくれる人は入社時の年収より2倍、3倍と昇給している事例もあります。そのうえで、SOは原則としてマネージャー前後以上でより大きな成果を出した人に付与しています。
──付与のタイミングはどうしていますか。
半年に1回の評価のたびに、高い評価を得た人へ都度付与しています。評価が終わった2ヶ月後、6月と12月にまとめて発行するサイクルです。
──かなり頻度の高い付与ですね。コストや手間もかかると思いますが。
確かに毎回バリュエーションの算定書を取得するなどコストはかかります。しかし、過去の成果に対して報い、将来へのさらなる期待を込めて渡すうえでは、半年ごとの付与はやるべきだと思ってやっています。このほか、幹部などには、入社後の上記サイクルに合わせて付与するケースもあります。
税制適格SOの設計と、有償SOとの選択制
──SOの設計の詳細についてお伺いさせてください。
基本は税制適格SOで、ベスティングは4年です。かつて信託型SOも検討していましたが、当初から税務面で不確実性があるという専門家からの指摘が出ていたので、結果的に税制適格SOだけで発行・運用していました。特徴的なのは、無償SOと有償SOの選択制にしている点です。
──有償SOも発行していたのですね。狙いを教えていただけますか。
無償の税制適格SOはM&Aの際に不利になる可能性があるので、そこをカバーしたい人は有償SOを選べる。但し、自分でお金を払う必要があるので全ての従業員が使っているわけではないですが、有償SOを選ぶケースもあります。
売却対象の設計
──今回のSOセカンダリーは、2024年度税制改正による保管委託要件の緩和(発行会社による株式管理スキームの新設)が前提になっています。どう対応されましたか。
2024年の時点で、上場前でも行使できるように追加の契約手続きなどは対応しました。半年に1回発行しているので契約書の数が本当に多くて、ドキュメンテーションは相当苦労しましたね。
──SOのうちどの部分を売却対象として設計したのかを教えてください。
アメリカのベストプラクティスを参考にしながら、当社が独自で設定した条件は2つです。1つは、ベスティング済みの部分のうち15〜25%程度を上限として売却可能としています。海外の事例を徹底的に調べたのですが、いわゆるテンダーオファーの売却上限はこのレンジが多かったので、それに合わせました。もう1つは在籍2年以上であること。事業成長に実際に貢献してきた人が報われるべきで、入社して半年の人が同じ条件で売れるというのはアンフェアだと考えています。結果として、対象は20〜30名でした。
──買い手の属性次第では、税制適格を維持するための証券会社経由の売却、いわゆる租税特別措置法上の「売委託」への対応も必要だったと思います。
おっしゃるとおりで、そこは証券会社にお願いして対応しました。
※編集注:「売委託」の詳細についてはこちらの記事も参照
──役職員がSOセカンダリーで売却益を得ると、辞めてしまうのではといった懸念もあるかと思いますが、この点についてどうお考えですか。
逆だと思っています。上限を設定しているので、ベスティング済みの分だけ見ても8割以上は残りますし、まだベスティングされていないSOのポーションも大きい。一部を現金化して余裕が生まれ、「アスエネのSOには本当に価値があるんだ」と実感できれば、みんなでさらに成果を出して企業価値を上げればさらに報われるという構造をより現実的に感じてもらい、むしろ腹落ちする。長期のコミットメントとモチベーション向上に寄与させることが一番の狙いです。
三方よしのセカンダリー
──それにしても、年2回のSO発行にセカンダリーの機会提供まで、なぜ西和田さんはここまでコミットするのでしょうか。
従業員のSOセカンダリーは、投資家・企業・個人がWin-Win-Winとなる三方よしの仕組みだと思っています。米国ではAnthropicやSpaceXがそうであるように、創業者だけでなく、そのスタートアップ船に乗り込んだ主要メンバーが経済的に十分なインセンティブを得られることはすごくいい世界で、日本でも同様のエコシステムを作りたい。日本のSOは辞めるとゼロになるケースがほとんどですし、上場しても株価がコントロールしにくくロックアップなどの制約もある。それに比べて、上場前のセカンダリーは、価格も相対で合意でき意思決定もシンプルで早い。従業員は一部を現金化できてなお大部分が残り、企業にとっては従業員のエンゲージメントが上がり、新規投資家も価格面のメリットがある。まさに「三方よし」の仕組みです。
──まさにそのとおりですが、西和田さんがこうした考えを持つようになった理由を、より深く知りたいです。
実は、メガベンチャーとして上場後も戦い続けている経営者の方々とよく議論させてもらっているんです。そのときに「急いで上場する必要はない」「自分も、上場はもっと遅らせてもよかったと感じている」と言われたのが心に残っています。また、当社は本田圭佑さんのファンドから出資を受けている関係で本田さんとも話す機会があるのですが、本田さんからも「SpaceXやByteDanceなどは十数回ラウンドを重ね、セカンダリーを使いながら非上場で成長している。非上場で急成長を続けられるなら、それが一番経営の自由度が高いのではないか。」といったコメントをいただいていました。
こうした上場企業経営者や投資家などとの議論を踏まえて、改めて上場のメリットを分解して考えてみました。まず資金調達については、今回のように非上場でもエクイティ調達はできるし、黒字化していれば融資も受けられる。採用面でも、非上場の方がよりリスクテイカーで熱意のある優秀人材が集まります。だったら、非上場でもいいんじゃないか。こうした対話と思考が、今回の意思決定の背景にあります。
──対話と熟慮を重ねたうえでの取り組みだったのですね。最後に、この記事を読むスタートアップ経営者やCFOの方々へのメッセージをお願いします。
最近、「スタートアップが元気ない」「IPOの件数が減っている」と言われますが、僕は今が、日本のスタートアップエコシステムがグローバル基準に変わるタイミングだと捉えています。IPOの件数の減少も、悲観すべきことではなく、エグジットのあり方が多様化していく過程だと思っています。IPOに加えて、M&Aとセカンダリーがエグジットの主流な選択肢として並ぶ世界にならないと、日本のスタートアップエコシステムは本当の意味では盛り上がりません。
M&Aが増えれば、売却した創業者がシリアルアントレプレナーとして2回目・3回目の挑戦をする世界になり、経験値のある強い起業家が生まれる。アスエネマフィアも輩出していきたい。そしてセカンダリーを最初から資本政策に組み込むことで、成果を出している既存メンバーに適切に報いることができ、これから入ってくる優秀で熱意のある人にも同じ機会を提供できる。そういう新たなエコシステムを作っていきたいですね。
──西和田さん、長時間にわたりありがとうございました。

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※本記事は、株式会社スマートラウンドが運営するメディアにおいて、スタートアップエコシステムにおける先進事例としてアスエネ株式会社に取材・掲載したものです。株式会社スマートラウンドおよびその子会社は、本記事で紹介したアスエネ株式会社のセカンダリー取引には一切関与しておりません。
※本稿はあくまでも市場のトレンドについて記述したものであり、個々の銘柄に関する投資のアドバイスや特定の取引を勧誘するものではありません。
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