「なぜ日本は女性起業家に冷たいのか?男性VCと女性ジャーナリストが語る変革への道 / Eight Roads Ventures Japan・David Milsteinさん × 羽生プロ・羽生祥子さん」SusHi Tech Tokyo 2025セッションレポート

2025-06-04

  • イベントレポート

なぜ日本は女性起業家に冷たいのか?男性VCと女性ジャーナリストが語る変革への道 / Eight Roads Ventures Japan・David Milsteinさん × 羽生プロ・羽生祥子さん

SusHi Tech Tokyo 2025セッションレポート

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Startup Next編集部がお届けする、起業家のライフ特集。

ビジネスの側面だけでなく、子育てや婚前契約、健康など、起業家という人生・生活を送る上でのヒントになる話をお届けします。今回のテーマは「なぜ日本は女性起業家に冷たいのか?」です!


2025年5月8日(木)に開催された「SusHi Tech TOKYO 2025」Day1のセッション「なぜ日本は女性起業家にフレンドリーではないのか?男性VCと女性ジャーナリストが語る変革への道」にて、Eight Roads Ventures JapanのパートナーであるDavid氏と、元日経グループの女性支援メディア編集長である羽生氏が、日本のスタートアップエコシステムにおける女性起業家の現状と課題について対談しました。

本記事では、その内容を対話形式でお届けします。

登壇者プロフィール

※役職は2025年5月8日時点のものです。

■David Milstein(デービッド・ミルスタイン)
Eight Roads Ventures Japan Managing Partner, Head of Japan

1995年よりM&Aコンサルティング会社を起業し、テクノロジー、金融系企業の買収のアドバイザリを行う。2000年、フィデリティ・ベンチャーズ日本オフィス代表として主に国内IT企業のベンチャーキャピタル投資と 海外投資先企業の日本市場へのエントリ支援を行う。2003年より、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の日本・アジアパシフィックにおける事業開発のコンサルティングに従事。2005年ウォルト・ディズニー・ジャパン入社。ディズニー・モバイルの携帯電話サービスを開始の責任者として事業計画からオペレーションを統括。2010年、ディズニー・インタラクティブ・メディア・グループ ゼネラルマネージャーに就任。2012年4月よりフィデリティ・キャピタル・マネジメント日本支店 (現:Eight Roads Ventures Japan) の代表を務める。米国ペンシルバニア大学卒業。ハーバードビジネススクールにてMBA取得。

■羽生祥子
株式会社羽生プロ代表取締役社長・著作家・メディアプロデューサー

京都大学農学部入学、総合人間学部卒業。2000年に卒業するも就職氷河期の波を受け渡仏。帰国後に無職、フリーランス、ベンチャー、契約社員など多様な働き方を経験。編集工学研究所で松岡正剛に師事、「千夜千冊」に関わる。05年現日経BP入社。12年「日経マネー」副編集長。13年「日経DUAL(当時)」を創刊し編集長。18年「日経xwoman」を創刊し総編集長。20年「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」始動。内閣府少子化対策大綱検討会、厚生労働省「共働き共育て事業」座長として働く女性の声を発信する。22年羽生プロ代表取締役社長。23年内閣府・厚生労働省・東京都の各種検討会委員、大阪・関西万博Women's Pavilion WA talksプロデューサー等に就任。24年マネックスグループ社外取締役就任。

日本は女性起業家に冷たいのか

羽生氏: 早速、問題に切り込んでいけたらと思い「なぜ日本は女性起業家に冷たいのか」というストレートなタイトルをつけました。本来ならもっとマイルドな表現にすべきかもしれませんが、実際のデータを見れば、「冷たい」という表現が適切なのです。

David氏:そうですね。データに基づく議論をすることが重要です。

- 日本の女性起業家を取り巻く厳しい現実

羽生氏: まず、2020年から2023年の日本のスタートアップ全体における投資額を見た時、女性創業者への投資額は全体のわずか2%しかありません。女性起業家の人数自体は8%強いるので、「女性起業家の方が投資を受けられていない」と言えると思います。

こんな状況ですが、政府も手をこまぬいているわけではないんです。女性版骨太方針で、女性経営者の割合向上が政府目標として掲げられています。

David氏:ただ、その方針自体があまり知られていないんですよね?

羽生氏: そうなんです。「企業の女性管理職比率を3割に!」というは新聞でもよく取り上げられますし、ご存知の方も多いと思いますが、女性経営者も3割を目指しているという方針については「そんな方針あったっけ?」という状態ですよね。広報が全然できていないんです。

- 海外との比較:明確な行動規範による変化

David氏:海外の状況も調査しました。女性起業家の57%が何らかの差別を受け、4割がハラスメントを経験しています。ただ、アメリカではPSG会長が「ビジネスとプライベートを明確に分ける」という行動規範を示したことで業界に変化が起きました。

羽生氏: 具体的にはどういう内容だったのですか?

David氏:とてもシンプルです。よくあるケースとして、男性のVCが女性起業家を食事やホテルに誘い、「投資の話をしよう」と持ちかけるような行動があります。PSG会長は「それは許されない」と明確に言いました。ビジネスをしたいならプライベートは持ち込まない、逆にプライベートな関係を望むなら投資はできない。

羽生氏: 一人のリーダーの言葉が業界全体に影響を与えるんですね。リーダーシップの重要性を感じます。

- 日本の女性起業家が直面する実態:驚きのハラスメント調査結果

David氏:日本の現状についても新しいデータがあります。東京大学のMasterの学生 江連さんが行った調査によると、117名の女性起業家のうち約8割(79%)が何らかのハラスメントを経験しています(出典:https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv/preprint/view/1244

羽生氏: それはかなり高い割合ですね。

David氏:さらに興味深いのはハラスメントの発生源です。投資家から起業家へのハラスメントが真っ先に想起されがちですが、実は最も多いのが「他の起業家」からのハラスメント。次が取引先、そして三番目がメンターや個人投資家からというデータが出ています。

よく「お酒の席だからしょうがない」という言い訳が聞かれますが、それはもはや通用しませんよね。また「無意識バイアスだった」という説明もよくありますが、それも言い訳にはなりません。実際には、多くの場合「無意識」ではなく、問題のある行動だと認識した上で行われているのです。

羽生氏: このような調査結果を見ると、若い女性たちがこの業界に入りたがらなくなるのも無理はありません。ただ、他の業界も昔はこういう状況だったところから一歩一歩改善してきた歴史があると思います。スタートアップ業界も今まさにその過渡期にあると言えるでしょう。

問題の根本原因:歴史と価値観アップデートの必要性

羽生氏: 日本でジェンダーギャップがなかなか改善されない理由を考えると、歴史的背景が見えてきます。私は「性別ガチャ」という表現を使っていますが、生まれた性だけで生き方や働き方がこれほど分断されている国は珍しいのです。

David氏:その歴史的な理由は?

羽生氏: 1970年代、「性別役割分業を基にした社会で日本は頑張っていこう」と総理大臣が宣言していたんです。それから15年後の1985年に職場での差別をなくそうという法律ができましたが、それは「禁止」ではなく「努力目標」でした。15年間かけてやっと「努力目標」ですよ!?ちなみにこの間、世界では「職場での性差別を禁止」に踏み切った国が多くありました。

日本の法律で差別が禁止されたのは1999年。つい最近のことなのです。

David氏:つまり多くの企業や組織が「1985年のWindows」のような古いOSのまま動いている状態ですね。

羽生氏: まさにその通りです!古いOSはアンインストールして、新しいものをインストールしなければいけません。

多様性がもたらす経済効果

David氏:多様性の重要性を示す具体例をいくつか紹介します。「Paidy」という会社は、約3年前に3000億円で売却された日本のメディア企業ですが、チームが非常に多様です。男性だけ・女性だけというグループはなく、様々な国籍のメンバーがいます。

「スーパーマジョリティー」がいない、というのが重要なんです。

また「メタップス」という会社も、約10年前に400億円のIPOを達成しましたが、ここも女性比率が高く、海外出身者も多い企業でした。

羽生氏: データで見ても同様の結果が出ています。日本政策投資銀行の25年間の調査では、製造業における特許の経済的価値は、男性のみのチームよりも男女混合チームの方が高いことが示されています。ただ注意していただきたいのは「女性のみのチーム」のデータがそもそもないので「男性だけだとダメ」という結果ではない、ということです。

つまり「男性が悪い」のではなく、「混ぜることの価値」が重要だということです。多様な視点がイノベーションを生むのです。

具体的な解決策

アクティブバイスタンダーの重要性:現場での小さな行動が変化を生む

羽生氏: 今の日本の状況を変えるために、何か具体的な対策はありますか?

David氏:まずは「アクティブバイスタンダー」という考え方が有効です。「アクティブバイスタンダー」とは、目の前で起こっている不適切な言動やトラブルに対して「見て見ぬふりをせずに行動する人」のことを言います。

私の実体験として、犬の散歩中に男性が女性を無理やり抱きしめようとしているのを見かけた時、犬が割って入ったことで男性が引いたことがあります。飲み会でも同じことができるんです。一言「それはやめようよ」と言うだけで、雰囲気が変わります。

羽生氏: 確かに、考えてみたら私もよく実践しています。例えば、お酒の席で若い女性にお酒を注ぐ役割を押し付けるような雰囲気になった時、私が「私やりますよ!ただ私すごく下手なんです、女性でも注ぐのが下手な人もいるんですよね〜」と冗談を交えて介入してみたり。ちょっとした一言でも雰囲気って変わりますよね。特にリーダーの一言は空気を変える力があると感じます。

リーダーシップから平等なチャンスの提供まで

David氏:まさに、解決策の一つはリーダーシップです。権限を持つ人が自分の声で変革を訴えることが重要です。特にVC業界では、投資家が「これはダメだ」と言うと、その行動規範が伝播します。

羽生氏: そして「下駄を履かせる」という考え方も見直す必要があります。この図をご覧ください。よくダイバーシティを説明する時に使われる「同じものを見るために高さの違う台に乗る」図です。実はこれ、本来は障害者雇用(disability)のための図で、例えば足が不自由な人にはスロープを、視覚障害の方には音声ガイドをという文脈で使われていました。

(出典:羽生祥子著、『ダイバーシティ、女性活躍はなぜ進まないのか?性別ガチャからの克服法』から抜粋)

David氏:女性の場合はこの図解は適切でないということですね。

羽生氏: そうです。性別と能力は関係ないのに、背が低い絵を示すと「女性だから能力が低い」という解釈になってしまいます。正しいのは「エクイティ」の考え方です。同じ能力の男性と女性が雇われた場合にもかかわらず、その後職場で「女性だから資金調達はうまくいかないだろう」などと能力とは関係ない属性で評価を下げてしまう。そういう状況を変えなければなりません。

David氏:スタートラインを同じにするということですね。それは平等(イコール)ではなく公平(エクイティ)という考え方です。

羽生氏: また、教育分野での改革も重要です。例えば「女子は数学が苦手」という先生や親の思い込みは、子どもたちの可能性を狭めてしまいます。

David氏:アメリカの研究では、男の子は女の子より学校で8倍も怒られるというデータがあります。そうすると、怒られることに慣れている男の子と、あまり怒られた経験がない女の子では、厳しい投資家からのフィードバックへの反応も違ってくるのかもしれません。

女性起業家へのアドバイス:ブレーキをかけずに挑戦を

David氏:まず大切なのは、怖がらないことです。自分のアイデアを積極的に売り込んでください。男性起業家は資金調達の際に大げさに説明することも多いですが、それは戦略の一つです。まず資金調達して、それから次のステップに進む。自分自身にブレーキをかけないことが重要です。

羽生氏: 私からのアドバイスは、全てを自分のせいだと思わないことです。時には「もし自分が男性だったら、このような反応があるだろうか」と考えてみることも有効です。ただし、本人のマインドだけでなく、周囲の環境改善も必要です。


本セッションで明らかになった日本の女性起業家を取り巻く厳しい現実—投資額のわずか2%、8割近くのハラスメント経験—は非常に深刻な課題ですが、解決への道筋も見えてきました。「アクティブバイスタンダー」としての勇気ある一歩、リーダーによる明確な行動規範の提示、そして「エクイティ」に基づく公平な機会提供が変化を生み出します。

古い「OS」から新しい価値観へのアップデートは、社会正義のためだけでなく日本経済の競争力強化にも不可欠です。女性起業家が自らにブレーキをかけずに挑戦できる環境づくりこそが、明日のより創造的なスタートアップエコシステムへの投資だということが示唆されるセッションでした。

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