
2026-07-21
【前編】全従業員が経営目線を持つための仕組みー国内初のSOセカンダリーを実現したHelpfeelの株式報酬設計ー
つい先日IPOを果たしたSpaceXなど、米国のユニコーンでは上場前に初期投資家やストックオプション(以下SO)をセカンダリー取引で売却するのが通例ですが、これまで日本では実例に乏しい状況が続いていました。しかし、2026年7月、AI時代の情報インフラを提供する株式会社HelpfeelがSOセカンダリーを実行したと発表しました。少なくとも公表されている範囲内では、日本初の事例と見られます。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2027S0Q6A720C2000000/
今回、Helpfeelの代表取締役 CEOの洛西 一周さんと取締役 COOの宮長 志帆さんにお話を伺いました。企業価値向上に向けて会社一丸となるための株式報酬をどう設計したのか、そしてSOセカンダリーの実行に至った背景について、前後編でお届けします。
シリコンバレーの原体験から生まれた、企業価値向上のためのSO
──今回、SOのセカンダリーについて報じられましたが、そもそもSO設計の背景にある思いからお聞かせください。
洛西:もともとHelpfeelはシリコンバレーで創業していました。シリコンバレーでは、スタートアップにおけるキャリア形成って、必ずしもエグジットまで在籍し続けることを前提としていないんですよね。シードからレイターまで様々なステージがあるなか、その人にとってベストなタイミングで最大限に貢献するスタイルが自然で、僕自身もそこに馴染みがありました。
ただ、特に米国では顕著ですがアーリーステージでは、自分はどこだって生きていける、という自立心の強い人ばかり集まってきます。彼らが上場までずっと在籍するかどうかは読めない。だから、SOのシェアは柔軟にあるべきだとは昔から思っていました。
──自然と、上場前にSOを流動化することが想定されていたわけですね。次に、SOの「狙い」についても教えてください。一般的には採用やリテンション、過去の貢献に報いるなど様々な目的がありますが。
宮長:実は、いま挙げていただいた目的のどれでもないんです。
やっぱり、上場後にきちんと企業価値を向上させていける会社って、資本市場と向き合って業績を上げていく会社ですよね。そこに対して、従業員と経営陣のインセンティブがずれると良くない。だから、これから業績を担う幹部候補の従業員に、株式市場に上場して企業価値を向上するとはどういうことなのかをしっかり知ってもらいたかった。利益を分けるだけじゃなくて、痛みも含めて「わかる学習」をしてもらう。SOはそのための仕組みなんです。
株価や業績に連動する設計
──まさに、企業価値向上に向けて会社全体でインセンティブを揃えるためのツールですね。では、持株会やRSUなど他の手段もあるなかで、税制適格SOを選んだ理由を教えてください。
宮長:企業成長を牽引していくメンバーには、上場まではもちろんのこと、一般的に株価が下落しやすい上場後1年ぐらいまでを一気通貫で見て、持続的に企業価値を向上させるべきだと考えています。その観点で、企業価値向上に集中できる設計にするのがいいんじゃないかとまず考えました。
洛西:そのうえで、最近発行したSOでは行使できる条件として「株価連動」「業績連動」「任命」の3つを組み合わせて設計しています。この思想が先にあって、それに合うスキームとして税制適格ストックオプションが選択された形です。
──かなり緻密な設計ですね。ただ、SOを付与された方が資本政策や株式報酬を理解していないと効果が薄れると思います。社内への伝え方はどう工夫されていますか。
宮長:現金報酬はちゃんと渡した上で、「SOはあなたたちが何を見て経営しなきゃいけないかを分かるためのベンチマークなんだよ」と伝えるようにしています。例えば、中長期の目線で物事を見るべき執行役員は株価の連動比率を高くしています。私や洛西から指示がなくても、SOの構造を見れば自分が何を見て経営すべきかがわかる。そういう設計が大事ですね。
「辞めてももらえる」でも「辞めたら没収」でもない、後任の業績と連動した設計
──他にSO設計で大事にしているポイントはありますか。
洛西:まずM&A時の取り扱いですね。M&Aの場合でも、業績連動・株価連動の条件にヒットしていたら行使可能としています。あとは退職者の取り扱い。「引き継ぎをちゃんとしてほしい」という思いをSOの設計に込めています。
宮長:退職者であっても、在籍中に業績要件などのトリガーを達成していたら、退職後も権利を保持できる設計にしています。
──「引き継ぎとSO」ですか!これはユニークですね。ぜひ詳細を教えてください。
宮長:企業価値向上のためのSOという原則を踏まえると「自分が退任したあとは知らないよ」というスタンスだと困ります。かなり緻密ですが、後任がちゃんと業績を達成すれば、引き継ぎをした退職者にも一定リターンがあるような設計としています。
洛西:まず、本人が在籍中に業績条件を達成していれば権利は持てるものの、すぐには行使できないんです。後任が業績を上げて初めて行使可能になる設計となっています。なので、退職する人も「自分はここまで業績を達成したから、あとは君がここまで業績を上げてくれ」という準備を整えないと行使できない形となっています。「頑張ってくれ」と声をかける程度ではダメで、後任を経営者として育てないといけないですね。

2024年の税制改正による影響
──こうした設計によるインセンティブを最大化するうえでは、上場前でも行使できるようにすることも重要です。2024年の税制改正で保管委託要件が緩和されましたが、このときはどう対応しましたか。
洛西:まさにその点がポイントでした。2024年の税制改正で保管委託要件が緩和されたのを受けて、自社管理スキームに対応する形で契約を見直しました。
──税制改正の対応をすぐに行ったということですね。上場前行使のやり方についても課題はありましたか。
洛西:実際に行使者が出てみると学びがいろいろありました。例えば、いつでも自由に行使できる状態では運用上問題があるので、四半期に一度行使できる「ウィンドウ」を設計しました。契約の見直しは、こうした設計をより洗練させるきっかけにもなりましたね。
資本市場と向き合って経営する意味を知ってほしい
──グローバル展開を進めるHelpfeelさんの従業員の中には、株式報酬により馴染みのある海外の方もいると思います。こうした方への配慮もありますか。
宮長:海外の方のほうが、感度は高いと思います。ただ、海外の方のために設計したというわけではなくて、むしろ日本の方にこそしっかり資本市場と向き合って経営することを知る機会を提供したい思いがありました。もちろんグローバルの優秀人材も採用したいですが、ご褒美としての報酬はちゃんと現金で渡すべきだと思っています。株を渡すからには、経営者として企業価値をどう向上させるかに向き合ってほしい。上場後はそういう世界ですし、その繋ぎ込みをするためのSOだと思っています。
──資本市場での評価と個人へのインセンティブを揃えることへの強い思いを感じます。
宮長:キャリアにおいて、うまく努力が報われないということがあると思うんですよね。そんななか、本人に努力してもらう方向性と資本市場で評価される方向性が一定揃うようにしてあげることで、みんなの努力が報われるようにしたい。例えば、単に長年いれば有利になるようにはしていません。また、自分が抱え込みすぎて業績が伸びない場合よりも、優秀な後任に譲って業績を上げたほうが譲った側にとっても有利になる設計にもしています。こうした「因果の繋がり」は大事にしています。

後編では、こうした背景で設計されたSOが、どのようにセカンダリー取引の実行に繋がっていったのか、そして従業員の反応や今後の展望をお伝えします。
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※本記事は、株式会社スマートラウンドが運営するメディアにおいて、スタートアップエコシステムにおける先進事例として株式会社Helpfeelに取材・掲載したものです。株式会社スマートラウンドおよびその子会社は、本記事で紹介した株式会社Helpfeelのセカンダリー取引には一切関与しておりません。
※本稿はあくまでも市場のトレンドについて記述したものであり、個々の銘柄に関する投資のアドバイスや特定の取引を勧誘するものではありません。
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