
インタビュー
「投資先を起点にファンドをつくる」個人向けVC・みなとファンドが挑む、LPの多様化
みなと投資 小板橋 達也さん
Startup Next編集部がお届けする、今をときめく!投資家インタビュー。志を持って活動される投資家のみなさんのバックグラウンドや考え方に、一歩踏み込んでご紹介しています。
2024年7月、福岡で創業したみなと投資株式会社。国家戦略特区「金融・資産運用特区」の規制緩和を活用し、個人投資家を中心としたベンチャーファンド「みなとファンド」を運営する、日本でも類を見ないユニークなVCです。代表の小板橋達也さんに、これまでのキャリアからファンドの仕組み、今後の展望までじっくり伺いました。
小板橋 達也
みなと投資株式会社 代表取締役
地方発ディープテック系スタートアップ2社で経営企画室長/取締役CFOとして、累計150億円超の資金調達・60件超のコーポレートアクション(事業会社・金融機関との資本提携、VCからの調達、投資家のExit)を実行。
2024年7月みなと投資㈱を設立。「金融・資産運用特区」の規制緩和を活用し、2026年から個人投資家と未上場企業をつなぐ特区認定ファンド「みなとファンド」を組成・運営。まずは小板橋さんについて教えて下さい!
キャリアの出発点は、グリーンシートという、かつて日本証券業協会が運営していた市場に株式公開していた東京のITベンチャーです。他社を買収して事業を広げる、今で言うロールアップ型の会社で、M&AとIRを担当していました。ただ次第に、自社プロダクトを磨いてIPOまで経験できる会社に参画したいと思うようになり、26歳で地縁も血縁もない熊本に移住して農業系のスタートアップに転職しました。畑から価値が生まれる、ものづくりの原点に手触り感を得たかったんです。以来13年、同社の経営企画室長、そしてスピンオフした会社の創業メンバー・CFOとして、2社のベンチャーファイナンスに関わってきました。VC・事業会社・金融機関を中心に資金調達や資本提携を重ね、累計調達額は借入も含めて150億円超。ものづくりの現場から資本市場と向き合った経験を土台に、2024年7月、みなと投資を立ち上げました。
みなと投資を立ち上げたきっかけは?
CFOとして大型のファイナンスを重ねる中で、気になっていたのがファンドのLPの偏りです。スタートアップに投資するVCは多様化し、個性豊かなプレイヤーが増えているのに、そのファンドへの出資者は国・金融機関・事業会社の3類型に集中している。この構成では、国の予算、金融機関のリスク選好や事業会社の経営判断といった出し手側の事情に、資金の流れが左右されてしまいます。ここに個人がLPとして直接入れる層が加われば、資金の流れに厚みと多様性が出るはず。ただ当時、個人がベンチャーファンドに出資するには一口5,000万〜1億円といった単位が必要で、ごく限られた富裕層の方々しかアクセスできませんでした。リスクの高い投資ですから一定の基準を満たす方に限られるのは当然として、もう少し裾野を広げられないか、と考えていたんです。
そんな時に出会ったのが、会社設立の前月・2024年6月に指定された「金融・資産運用特区」です。福岡には「ベンチャーファンドへの出資規制緩和」という特例が設けられました。適格機関投資家等特例業務の届出ファンドでは、従来、個人投資家等の出資はファンド総額の2分の1未満に制限されていましたが、認定事業者のファンドではこの上限がなくなります。適格機関投資家1名は必要ですが、個人がマジョリティを占めるベンチャーファンドが、届出ファンドとしては日本で初めて可能になったんです。
【編集部注】 特区の対象地域指定は2024年6月4日(東京・大阪・福岡・北海道)。福岡の特例は2024年11月18日施行で、利用には区域計画上の認定が必要(みなと投資は2025年3月に全国初の認定を取得)。

ファンドの仕組みについて教えて下さい!
みなとファンドは、1本あたり数千万〜数億円と、一般的なベンチャーファンドに比べれば小ぶりですし、個人の出資者は「共感できる会社や経営者に自分のお金が届いているか」を重視されます。個人中心のファンドで分散投資するのは、ファンドサイズの面でも出資者の判断軸の面でも向いていない。だからこそ、1社集中の「ターゲットファンド」という形に行き着きました。
手順も通常とは逆です。普通はLPから出資を集めてファンドを作り、投資期間中に投資先を選ぶ。私たちは先に投資先と出会い、その会社の資本政策上のニーズに最適化したファンドを作って、出資者を募ります。「投資先を起点にファンドを作る」オーダーメイド型のファンド製造業と名乗るのは、そういう意味です。投資先が事業を通じて築いてきた関係性を、資本に変える仕事だと思っています。純粋な資金調達はもちろん、セカンダリーの受け皿をワンポイントで担う、個人ファンの出資をファンドに集約して株主名簿を1行にまとめる。応えられるニーズは様々です。
この「投資先を起点にファンドを作る」という発想には、由来があります。グリーンシート市場の生みの親と呼ばれる出縄良人氏が1990年代から「拡大縁故募集」という言葉を提唱されてきました。会社が、自らの縁故、つまり家族や友人、顧客や取引先、そして事業に共感するファンから出資を募るという考え方で、まさに投資先を起点にした資金調達でした。ただ当時は、応援してくださる方が増えるほど、発行体側の開示や株主対応の負担も重くなる構造でした。ファンドという器を挟むと、そこを切り離せます。会社の株主名簿には1行しか増えず、開示は組合の中で完結する。それでも応援団はできる。当時は難しかったことが、いまの投資環境と制度の組み合わせなら成立する。そう考えています。
どのようなスタートアップに投資をしていますか?
2026年1月の本格始動から8ヶ月で2つのファンドをクローズし、2社を支援しています。LPは私たちが連れてくるというより、投資先の顧客や取引先、役員・従業員といった「顔の見える」方々が出資者です。
「周囲に応援者がいること」が条件ですから、なかなか相手を選びます。「うちにそんな人いないよ」と言われることもありますが、「実はこういう方々も対象になるんですよ」とお話しすると、「それなら声をかけられる」となる起業家の方も少なくありません。私たちが見るのは事業領域ではなく、関係性の厚みです。だから、ステージ・領域・エリアは問いませんし、福岡の制度ですが投資先も投資家も全国が対象です。資金需要への対応はもちろんですが、共感を軸に応援してほしいという強いニーズのある会社にこそフィットすると考えています。
その中でどのように投資先と関わっていますか?
投資後は、他のVCと同様に毎月コミュニケーションを取ります。私たちがこれまで培ってきたファイナンスの知見を活かして支援をしています。それだけでなく、投資先の成功を願うLPの方々からのサポートも生まれています。
実際にこんなことがありました。あるファンドのLPの中に、投資先プロダクトのユーザー企業の経営者の方がいらっしゃったんです。つまり、投資先が売上を立てていたお客様が、今度はファンドを介して、その資本に厚みを持たせる出資者になってくださった。すると出資を機に「もっと導入していこう」というファンになり、さらに「使って良かった」と同業の方々にも声をかけて、積極的に紹介までしてくださるようになりました。投資先からも「今までにない支援の輪が確実に広く太くなった」と言っていただけました。
もともと関係性の近い、顔の見える方々が「俺、株主だからね」と応援団になってくださる。資金だけでは生まれないこの副次的な効果こそ、このファンドの形ならではです。将来的には、LPの方々からのご支援を投資先へもっと繋げていきたいですね。
魅力を感じる起業家は?
人と資金。どちらを集める力が欠けても会社は成り立ちません。中でも私たちのスキームは、関係性を資本に変えるものですから、経営者の「人を引き寄せる魅力」を必ず拝見します。定量化しづらい部分なので、直接お会いして、事業の現在の立ち位置とあわせて、これまでの活動を通じてどんな方々とどんな関係性を築いてこられたのか、それをテコに将来どう飛躍できるのかを伺う。そこがターゲットファンドとして成り立つかどうかの肝になります。

今後の展望について教えて下さい!
まずは1件ずつ実績を積み上げ、中長期的には月1件のファンド組成を目指します。ファンドが10本、20本と増えれば、エンジェルの方々との縁も10倍、20倍に広がる。「前はA社を推して出資したけれど、今度はX社に共感したので出資する」といった循環を作っていきたいですね。
その先には、近く立ち上げるベンチャーデットファンドなど、ラインナップの拡充も見据えています。セカンダリー取引の買い手としての参加や、役員・従業員持株会的な受け皿としての活用も視野に入れながら、国・金融機関・事業会社に次ぐ「個人」という新たな資金流入経路を太くしていく。地域や事業の周囲に眠っている資金が、事業の成長へ流れていく。個人が応援資本を出し、事業が育ったらそれを次の資本へ引き継ぐ。そんな小さな資本循環をつくることが、私たちの目指すところです。
最後に、起業家へのメッセージをお願いします!
あなたの事業を日々見てきた顧客や取引先、役員・従業員、これまでの仕事仲間の中に、「機会さえあれば応援したい」という方は意外といるものです。その顔の見える関係性を資本に変えるのが、私たちの役割です。「うちにそんな応援者はいない」と思う方も、一度お話しさせてください。実は、いらっしゃるんですよ(笑)。
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